東京永久観光

【2019 輪廻転生】

文学

★服従/ミシェル・ウエルベック =読了=

キリスト教を乗り超えるかたちで西洋近代の思想と生活が出現したが、今や、その西洋近代の行き詰まりを一掃するためにこそイスラムの思想と生活が必要だ、といった必然性が語られている。言い換えれば、キリスト教は中途半端な信仰だったから人間中心主義や…

★電車道/磯崎憲一郎

ふしぎに面白く、ふしぎに一気読みしてしまった。突然の気づきと驚きのなかで、人の認識は、人の人生は、あっと相転移する。この小説ではそれが時をおいて繰り返される。それを悟りと呼びたくなるのは、この作家の過去の作品とまったく同じ。そのときの情景…

★匿名芸術家/青木淳悟

阿佐ヶ谷北の中杉通りと早稲田通りの交差点。青木淳悟『匿名芸術家』で やけに詳しく描かれるが何の変哲もない場所の1つ。路線バスのルートだそうだが、今Google Mapを見たら、ちょうどホントにその関東バスが左折していて、驚愕した! 全体にきわめてとぼ…

★オルフェオ/リチャード・パワーズ

ド・ミ・ソのミが半音低いだけで、なぜ暗く悲しく響くのか、ということが15年ほど前からずっと気になっていた。これは相当幅の広い問いのようで、音楽の領域にとどまらず人間の心理や世界の文化史なども関係してくるだろう。そうなると、その問いをより良く…

★私の恋人/上田岳弘(三島賞)

『新潮』4月号がたまたま家にあり、巻頭が上田岳弘「私の恋人」(三島賞)だった! アフリカを出た現生人類はやがてオーストラリアへと行き着くが、われらが2回めの旅のどん詰まりはというと、東の果てにおける原爆投下だった、という仮の見取り図がまず示…

文芸誌の使用価値と交換価値

浅田+中沢+東の鼎談「現代思想の使命」(ゲンロンカフェイベント)を、新潮4月号で遅ればせながら読み、ここ15年の状況がもののみごとに整理させれていて唖然としたが、それはさておき…ふと雑誌の裏に目をやると「救心(どうき・息切れ・気つけに)」の広…

神が不在なら…

少なくとも3.11の地震・津波・原発事故のあと日本中の大勢の人が「人知を超えた何か」みたいなことをたぶんそれなりに考えていると思うのに、同じく「人知を超えた何か」を考えていると思われる(旧)オウム真理教の人を何故これほど拒絶するのか、不思議と…

★MとΣ/内村薫風

きょうは早朝から「MとΣ」という小説を読んでいる。新潮3月号。内村薫風という初めて聞く作家。小説の冒頭も早朝で、南アフリカ共和国のケープタウン郊外、刑務所に向かう道路から始まる。かと思えば、同じページの中で馬喰町にある社員が馬のごとくこき使わ…

読んで忘れてまた読んで

蓮實重彦の本格的な評論「『ボヴァリー夫人』論」の連載が、文芸誌『新潮』で2014年1月号から始まっていたのだった。 ……というか、単行本がすでに6月に発刊されていたのだった!(新潮は連載ではなく冒頭のみの先行掲載とのことだったらしい) 今やっと「序…

★道化師の蝶/円城塔

たいていの小説は「人間とは何か」をめぐっているが、円城塔の小説はそうではない、たとえば「言語とは何か」「知性とは何か」「認知とはなにか」をめぐっている。円城塔を初めて読んだときから私はそう思った。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20120210/p1 …

★春の庭/柴崎友香(芥川賞)

最初、このアパートがいわば主人公なのかと考えた。保坂和志『カンバセイション・ピース』もたしかそんなふうだった。実際、それらの建物の配置や造り、そこから眺められる植生などが淡々と描写されていく。一方 人物のほうの主人公は一人に定まらないようで…

2014年の読書記録 (1) =小説編=

★翔ぶが如く/司馬遼太郎 司馬遼太郎はこの長い小説で、明治維新から西南戦争に至る時代を、徹底的にかみ砕き腑分けしながら繰り返し繰り返し記述していくのだろう。西郷という人物がいかなる人物であるのかをとにかく見つめたいという願いがゆえに。薩摩藩…

★ソナチネ/北野武(文学は戦争、哲学は外交)

図書館で目にした映画のシナリオ集に『ソナチネ』(北野武・監督脚本)が載っていたので借りて読んだ。映画を何度か見ているからだろうが、脚本を読むだけで各シーンがありありと浮かび上がる。まさに脚本は映画の表象だな〜。その当たり前のことが新鮮に感…

人工知能は落ち込まない?

人工知能が人間の脳を完全に模倣できたなら、そのとき人工知能も人間のごとく たとえばうつ病になりうるか。そんなことを考える。 そもそもうつ病って何だということになるが、「抑うつ気分」「興味または喜びの喪失」の2つを主症状とみるのが一般的。では…

旅先で読むジュリアン・バーンズ

今回の旅行にはジュリアン・バーンズ『終わりの感覚』を持ってきた。ある作家の長編を1冊読むのは、ある国を1回旅行するのに等しいくらいのインパクトだろうと、私は思っている。実際ふつうの人生を送っていれば、たとえば100人の作家をしっかり読むことはで…

脳は感情なしに思考しないのでは?

あらゆるものごとの理解そして記憶は、感情を添えて行うからこそできる、少なくともスムーズに行える、ということはないか。「概念や論理にすらクオリアが伴うのでは」という話の続き。「ロシアは恐ろしい国」「中国は傲慢な国」「アメリカは最近ちょっとお…

長いようで短い

このあいだ、といっても私の場合それが数か月も前だったりするので自分で驚いてしまい、ブログの日付もそんなふうにしてポンと飛ぶことになるのだなと納得するわけだが、ともあれ、このあいだ「代謝」という言葉を使った。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20…

★かわいそうだね?/綿矢りさ

いきなりの妄想炸裂が可笑しい。等身大の自分として書いているのか、少し緩めの人物を設定して書いているのか、気になる。とはいえ、直感的な言葉にしたらLINEの会話になるような恋情を、あえて丁寧で論理的な言葉にしたものが、文学にすぎないのかも。 *ア…

★素粒子/ミシェル・ウエルベック(1998)

(asin:4480831894) 1958年生まれのフランスの作家。米国のリチャード・パワーズが1957年生なので、どう違うだろうという興味が自ずとわく。5分の2ほど読んだところでは、ウエルベックは冷笑・自閉・絶望といった成分がパワーズより とても多い気がする。…

★上海、かたつむりの家/六六

中国で人気沸騰したTVドラマの原作とのこと。かの国の現況がしっかり盛り込まれているというので読んでみた。上海に住む若い普通の夫婦が高騰するマンションを無理にでも購入しようと涙ぐましい努力……。そんな物語としてスタートしたが、やがて、市政府の特…

★ニッチを探して/島田雅彦

何を見てもなにかを思い出す という名言があるけれど、ちかごろの私は何をみても歳月の経過を思う。若いころから同世代を代表する知性と信じ親しんできた島田雅彦だが、今やその小説の主人公も馬齢を重ね所帯と妻子をもつ管理職になっている。(とはいえ「青…

ピンチョン世界半周

鶏は3歩ですべてを忘れるとかいうが、かりに世界一周旅行をしても、アンコールワットであろうとマチュピチュであろうと、すべて行ったことを忘れてしまうのだろうか。ピンチョンの『逆光』を読み通すことが、私にはもはや世界一周旅行を実行するほど高いハ…

このあいだまで10代だった連中がみんなそろって40代になっている

そのような体験を私はした(それすら昔の話)。私が通った高校では卒業して27年後に本格的な同窓会を行う決まりなのだ。出席した日の感想を一言でいうと――「まるで拉致被害者の帰国だ」 ◎参照:http://www.youtube.com/watch?v=HmkdfA_0_Voもう若くないとい…

東京は煙霧

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%85%99%E9%9C%A7 *ところで、たまたま昨夜読んでいた本に、インドネシアにある「クラカタウ」という火山島が出てきた。1883年に巨大な噴火を起こし、島が吹き飛んだあげく、噴煙は地球全体を覆い、のち数年間 世界中で夕日…

★他人の顔/安部公房

じつに久しぶりに読んだ。年末年始の旅行中に。 こんな小説。《液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男……失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔"をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男…

世紀の宿酔い

本ばっかり読むのは、酒ばっかり飲むのと似ているか。ストックが切れると困ってしまう。(酒も図書館で借りられるといいのに)ツイッターしかしないというのも、パチンコしかしないというのと似ているのだろう。 * ピンチョンの『逆光』は20世紀になったば…

世界に一つだけの餃子

あいかわらず『逆光』(トマス・ピンチョン)上巻を読んでいるのだが、20世紀初頭に飛行船で世界中に派遣され何やら壮大な陰謀に関する情報収集を続けているらしい少年グループが、こんどは砂に潜れるとかいう装備を与えられ、「ブハラに行け」などと命令さ…

読んでも読んでも

「喉元すぎれば熱さ忘れる」というが、分厚い本にぎっしり記された文章を読んでいても、ページを過ぎれば内容を忘れているのは、どうしたことか?そもそも、喉を通り過ぎた食べ物のことを我々はどれくらい覚えていたり忘れてしまったりするものなのだろう。…

そんな大それた報告ではない

ツイッターのタイムラインを眺めるのは新宿の繁華街を歩いているようで、何処まで行っても飽きないのだが、それはつまり何処まで行っても満足に至らないということだ。たとえば表参道や下北沢や吉祥寺を歩いているときのようなチャーミングな出会いが滅多に…

サハリン体験記(4)

ユジノサハリンスクから乗ったバスで、隣に座った人が「日本人ですか」と話しかけてきた。曹さんという朝鮮系の男性。30分ほど話を聞いた。20世紀東アジア史の縮図みたいな人生だった。 1940 朝鮮半島北部に生まれる。 1943 両親とともにサハリンへ…