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【2019 輪廻転生】

★上海、かたつむりの家/六六


 上海、かたつむりの家


中国で人気沸騰したTVドラマの原作とのこと。かの国の現況がしっかり盛り込まれているというので読んでみた。上海に住む若い普通の夫婦が高騰するマンションを無理にでも購入しようと涙ぐましい努力……。そんな物語としてスタートしたが、やがて、市政府の特権役人男性を相手にした恋愛事変が主軸になっていく。めまぐるしい展開で最後まで飽きなかったが、もっと内省的な小説かという期待は外れた。

日本にいろんな小説があるように中国にもいろんな小説があるのだろう。これはカジュアルな部類なのか。いや、そもそも中国の現代小説を読んだのはこれが初めてかも ということを、もっと反省すべきだ。

日ごろ中国と接するのは東シナ海のニュースや新宿電気街の買い物集団を通してばかりなので、「友達できるかな?」なんて気はさらさら起きないのだが、繊細な人や健気な人がいないわけではないのだ。ただ一冊の流行小説から、そんな当たり前のことに ようやく思い至ることもできる。

それにしても、ひとつの発言や出来事をめぐって「ああでもないこうでもない」と講釈や思案がひとしきり続かないと、正統な小説らしく感じないのは、ドストエフスキーやピンチョンを読み過ぎたせいだろうか?(いやいや、ぜんぜん読み過ぎてなどいない)