東京永久観光

【2019 輪廻転生】

文学

読んでも読んでも

「喉元すぎれば熱さ忘れる」というが、分厚い本にぎっしり記された文章を読んでいても、ページを過ぎれば内容を忘れているのは、どうしたことか?そもそも、喉を通り過ぎた食べ物のことを我々はどれくらい覚えていたり忘れてしまったりするものなのだろう。…

そんな大それた報告ではない

ツイッターのタイムラインを眺めるのは新宿の繁華街を歩いているようで、何処まで行っても飽きないのだが、それはつまり何処まで行っても満足に至らないということだ。たとえば表参道や下北沢や吉祥寺を歩いているときのようなチャーミングな出会いが滅多に…

サハリン体験記(4)

ユジノサハリンスクから乗ったバスで、隣に座った人が「日本人ですか」と話しかけてきた。曹さんという朝鮮系の男性。30分ほど話を聞いた。20世紀東アジア史の縮図みたいな人生だった。 1940 朝鮮半島北部に生まれる。 1943 両親とともにサハリンへ…

回りくどく生きて死ぬ。

自分にあきれて呟いた一言のようで、じつは、リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』をサハリン旅行中から熟読再読し、一つのことを述べるのにこれくらい回りくどくするのを私もやってみたい、いやいくらかやっているか、と思ったことが発端。

つまり、私のいない読書?

青木淳悟『私のいない高校』を読んでいる。 この小説に「何が書いてあるのか」はわかる。ところが、この小説が「何をしているのか」がわからない。言い換えれば、ふだん小説を読んでいて「この小説はいったい何をしているのか」と首をひねることはない。なぜ…

twitter考

「うるさいな、おれは現代詩をツイートしてるんだから、ほっといてくれ」 詩とは何か。それは改行だと高橋源一郎は述べた。 インターネットの普及によって、あらゆるツイートは現代詩になり、かつての現代詩はすべて古代詩と呼ばれるようになった。

★死んでも何も残さない/中原昌也 

学校的勉強的な評価軸からみれば、この人の10代はクズだったことが改めてわかる。では、クズのような子供だったにもかかわらず、希有な芸術家になったのだろうか? それとも、クズのような子供だったからこそ、希有な芸術家になったのだろうか? そこが結局…

これは感想文です

★これはペンです/円城塔 私たちは歩いたり食べたりするのと同じくらい自然にしゃべるので、言葉が道具だなんてまさか思わない。しかし、たとえば次のような目にあったらどうだろう。・文を作るのにいちいち活字を拾わねばならない。しかも活字は不足してい…

★Self-Reference ENGINE/円城塔

知能・言語・論理。あるいは人工知能と地球外知性。はたまたビッグバンや宇宙の果て。それを考えだしたらどんどん突飛な話が浮かんできた! ……その醍醐味と興奮そのもののような小説。そう言うと「まるでSF」に思えるが、そうではない。SFの多くは、知能…

★恋する原発/高橋源一郎

ちゃんと読むことにした。この小説はきわめて根源的な問いを投げかけている(にちがいない)。2001年の同時多発テロと2011年の東日本大震災の二つを見つめているのだから、ふざけようが手を抜こうが、そうならざるをえないと思う。2001年の同時多発テロから…

羊をめぐる冒険/村上春樹(3)

村上春樹を論じたものについて、他に少しだけ。 * 『羊をめぐる冒険』は1982年の発刊で、私はその1、2年後に『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』を含めて読んだ。そのころ、村上春樹の評論をまとめたある本で、私は、主人公の自閉性を強調した三浦雅士…

内田百間が もしEvernoteのユーザーだったら

「風呂敷包」というエッセーにそれが垣間見える。風呂敷包はつまり「クラウド」か。「スンダ事に用ハナシ。モウ今日限リ止メル也」と書いて、日記をやめた百間先生。その後、用事は紙片(かみきれ)に書き留めるようになる。それでどうなったか。あまりに面…

羊をめぐる冒険/村上春樹(2)

「羊」が何を意味するか。ジンギス汗の名が呼びだされもしているが、モンゴル的な征服権力意志を象徴していると、一応いっていいだろう。(川村二郎「文藝時評」『文藝』1982・9) 「羊」とはいったい何なのか。おそらく村上春樹はそれは結局は何かのメタフ…

羊をめぐる冒険/村上春樹(1)

何の脈絡もないが、『羊をめぐる冒険』を久々に読み始めた。これが面白くて あっというまにページが過ぎる。ただ「いつ本題に入るんだっけ」と思う。「なんだこれ長い前置きだったのか」「あれこれもまた前置だよ」みたいな。そんなふうに、面白いのと先が気…

ツイッター徒然(ネット考・脳考・小説考)

140字じゃ言えないからといって、なにも言わないままだと、言いたいことはどんどんたまり、ますます140字じゃ言えなくなる。 140字で言える分だけそのつど言うようにしたほうがよいのか…… ……などといちいち思い悩まず、すっきりさっぱりツイートすれば勝利は…

我ロンドンに到着せり

ヴェルヌの『八十日間世界一周』を光文社古典新訳文庫で読んだ。1872年出版の名作。 ではクイズ! Q1(難易度★★★) 主人公はロンドンを出発しロンドンに到着します。どういうルートだと思いますか? 世界地図に記しなさい。 Q2(難易度★) ルートの大半…

でも読書のほうがストレンジャー

きのうはネットばかりしていた。ほんとにネットしかしなかった(ちらっと新宿のデモを見に行ったが)何万年か前なら、人間は毎日毎日食糧採集しかしなかったのだろうか? そのころ日曜日はなかったのだろうか? 人類は進歩したのだろうか? 原発生活もヘンか…

雑感

まるで今にも世界が終わるかのような悲嘆。これじゃ本当に世界が終わるときはどうするのだ。 * ――では、本当に世界が終わる話―― 野の花診療所の徳永さん。こういう場所や人がたくさんあるといい。爆笑学問 http://www.nhk.or.jp/bakumon/previous/20110519.…

想い出はモノクローム 色を点けてくれ

資生堂のCM女優が勢ぞろいした映画『FLOWERS』をDVDでみた。竹内結子主役の昭和30年代(だったか)のパートは、カラーの色が微妙なぐあいで、ふしぎに懐かしさを誘った。その時代に撮影された映画の色合いを模しているのかもしれない。昭和30年代というと1…

ほうれん草は原子力レンジでチンせよ

電気なんて私には空気みたいなものだが 実用化された当初の人々には まさしく神秘あるいは魔法として映っただろう。 それは19世紀後半ごろ。 原子力発電の登場はそれから1世紀くらい後か。 今どき電気を神様として崇拝したり 悪魔として忌避したりする人はあ…

津波も情報も瞬時にやってくる

今回の地震で揺さぶられたのは体だけでなく、 心もであり、そして頭もだ。 こんなことがあると、自分のこと、社会のこと 総ざらいするようにものを考える。 9.11。あのときもそうだった。 あれからもう10年かとしみじみ思う。 10年が経過し、 私の目の前まで…

芥川賞「きことわ」

芥川賞「きことわ」を読んでいる。昔の出来事を思い出したり、そのときの人物や建物と長い時間をおいて再会したりする話。語り手の思いの中では昔と今がとけあってひとつのことになっていくようなところが、とても面白い。そこは保坂和志の小説やエッセイに…

逆光の続報

トマス・ピンチョン『逆光』。読むのが楽しいと、やっと正直に思えるようになってきた。上巻の半ばまできて、重要な人物が1人殺されたあたり。この小説は、まったく知らない出来事や人物や関係についての説明が詳しすぎ、複雑すぎて、相当がんばらないとつい…

逆行というか

ピンチョンの『逆光』をまだ読んでいる(読んでいないというか)章ごとに主要人物が入れ替わるので、そのつど「この人だれだっけ、あそうか爆弾ゲリラの人だ」とか「え〜と錬金術師で写真師の人かな」とか、いちいち思い出すのが大変。しかも、人物が久々に…

世紀の罵倒

柄谷行人が文芸誌のある対談で作家の中野孝次を激しく罵ったことがある。昔(1985年)のことだが、ネットでは今も伝説っぽく語られる。私は当時図書館でたまたまそれを読んでおり、あまりのひどさにぎょっとした覚えがある。あれはいったい何だったんだろう…

手段でなく目的として

とうとう買った。読もう! asin:4105372041 * ◎2010.12.8(ツイッターまとめ) 『逆光』を読み始めてすぐに思ったこと――自分のなかにある経験や知識のすべてを、もしまるごと盛り込もうというつもりなら、たしかに、こうした小説を書くことによってであれば…

コルモゴロフ複雑性なんてのがあるらしい。

「記述言語 L における文字列 x のあらゆる記述のうちで最小の長さをもつ記述」を見出せ! と。たとえば上の画像は17KBだが、この画像を生成するプログラムは17KBよりはるかに小さいサイズだというのだ。(詳しくは以下)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%8…

ピンチョンみたいなものを読むのはすこぶる大変なのだろうが、ピンチョンみたいなものを書くのはもっと大変なのだろうか、それともじつは、同じくらい大変なのだろうか。後者だったら、人生は短いので、「オレは書くことにした」なんて人はいないのか?

人生の輝きとは北国の夏のごとく短い間のなにかではないか

きみは豊原という地名を知っているか? では栄浜は? 答は下の地図にある。 ここはサハリン。 州都ユジノ・サハリンスクはかつて豊原と呼ばれていた。 栄浜はそこから数十キロ北にある。現在はスタロドゥブスコエ。 そもそもサハリンってどこだっけ? すぐわ…

ルートは1本しかない

文章は絵画のように出来事を一望できるような媒介ではないと昨日書いた。しかし、文章は、すべてを重複も漏れもなく読める、しかもそのルートは1本だけで迷うことがない、ということ自体は、ものすごくすばらしいことではないかと、気づく。なぜそんなことが…