東京永久観光

【2019 輪廻転生】

ピンチョン世界半周


 逆光〈上〉 (トマス・ピンチョン全小説)


鶏は3歩ですべてを忘れるとかいうが、かりに世界一周旅行をしても、アンコールワットであろうとマチュピチュであろうと、すべて行ったことを忘れてしまうのだろうか。

ピンチョンの『逆光』を読み通すことが、私にはもはや世界一周旅行を実行するほど高いハードルになってきた。それどころか、下巻を買って久しいのに、上巻を読み終えたかどうかをなんだか忘れてしまい、最後のほうを開いてみてもなお、読んだかどうかなかなか思い出せなかった(実際は読み終えていた)

これはもはや若年型のアルツハイマー病ではなかろうか。…「若年型」とそう胸を張るほど若年でもないのだが。

というわけで、『逆光』はとにかく内容があまりも豊穣なので、とても濃い体験をすることになる。しかしそれゆえに、世界一周した(読み通した)後で、章ごとページごとの細部の詳細さを保ちつつ、その全体を一望・回想するというのは、たぶん不可能だろう。再び実際に本を開けば濃い読書の記憶をその都度は思い出せるだろうが、再び実際に本を開かないかぎり無理だ。

『逆光』は内容がただ多いだけでなく、知らない事柄がやたら多いということこそが、特徴なのだ。そこが喫茶店なのか事務所なのかいちいちわからない海外の街歩きと同じ。ただ歩くだけのために(ただ読むだけのために)、いちいち立ち止まって考えたり調べたりしないといけない。やたら時間を要する。

(そんなところに、島田雅彦『ニッチをさがして』などを買って読み始めたのだが、おもしろいだけでなく、ものすごく読みやすい=内容をいちいちネット検索しなくてよいので、逆にびっくりしてしまう)

それにしても、苦労に苦労を重ねて読んでいる小説の内容をほとんど覚えていられないというのは、少なくとも意識上の血肉にはならないということで、じつに壮大な無駄を為しているともいえる。海外旅行のあちこちでいろんな思いをしたことの大半も、同じような無駄だったのだろうか。

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そもそも:机ではネットに縛られて本は読めない。布団では本は最高の睡眠薬。いつ読む? (通勤しても自転車)