東京永久観光

【2019 輪廻転生】

★She's Leaving Home/ビートルズ

ビートルズの「She's Leaving Home」、ボーカルだけのデータが聴ける(こうしたプログラムがあるようだ) ポールの歌声の美しき安定を改めて実感した。ジョンのコーラスも絶妙。 この曲は四重奏的な弦楽とハープだけの伴奏であることもよく知られている。そ…

フレーゲ『算術の基礎』を読む(希望)

ゴッドロープ・フレーゲは、数という抽象世界がこの世とは別に実在すると考えていたらしい。独特の「プラトニスト」とも呼ばれる。そんなわけで『算術の基礎』を開いてみようかと思い立つ。 生死の意味を問うとかはもう諦め気分になっているので、違うことを…

★減速する素晴らしき世界/ダニー・ドーリング

減速する素晴らしき世界/ダニー・ドーリング https://str.toyokeizai.net/books/9784492396667/ 世界的な規模の社会的な変動に関する本だが、その趣旨はさておき、思いがけず自分に感心したこと―― 減速とは減少ではない、加速の反対であり増加の反対ではな…

★物価とは何か/渡辺努(講談社選書メチエ)

今 地味に注目されていると思われる『物価とは何か』(渡辺努 講談社メチエ)では、価格の硬直性というのが重要な視点で、とりわけ近年の日本における価格の異様なほどの上がらなさが、さんざん描かれていた、のに…。 『物価とは何か』(渡辺 努):講談社選…

★創発する生命 化学的起源から構成的生物学へ/ピエル・ルイジ・ルイージ

さてまた根本の問い――人間の出現は必然か偶然か。すなわち「決定論か偶有性か」。 『創発する生命』(ピエル・ルイジ・ルイージ)は面白い表現をする。 《科学者は神を玄関から追い出したが、彼をふたたび裏口から招き入れた。神のみならず「神聖なる生命」…

★イワン・イリッチの死/トルストイ

ベートーベン 弦楽四重奏曲 第14番 第1楽章 - 東京永久観光 先日はベートーベンの旋律に「本当の終わりを知らない」という歌詞を戯れのようにつけてみたが(上)、「本当の終わり」がいかなるものかは、この小説に書いてあった。苦痛・恐怖・絶望、それ以外…

付箋はがし、借金はがし

書物に貼った付箋とは、負債なのかもしれない。困ったことだ。貼ったものは剥がさなければならない。メモして理解して貸し借りをゼロにしなければならない。「いや、いいんです。剥がさずそのままで。なんだったらもっとじゃんじゃん貼ればいいんです」――MMT…

★ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考/古田徹也(角川選書)

www.kadokawa.co.jp 読んでいる。結局こういうものを読むことになる。私がなんだかんだと今なお考えあぐねていることに、ウィトゲンシュタインはとっくの昔から突き当たっていたのだろう。突き刺さっていたというか。 《世界がいかにあるかが神秘なのではな…

★「覚える」と「わかる」』/信原幸弘(ちくまプリマー新書)

www.chikumashobo.co.jp 《理解できないまま全文を読みきることが理解に至る必須の条件なのである》 不思議だが実際その通りで、でもその通りだがやっぱり不思議で… そこを「それでいいんだ、それしかないんだ」という励ましの書か。信原幸弘さんは認知の謎…

2022年 読書記録

<文学> 黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ 現代文解釈の基礎 どこから行っても遠い町/川上弘美 雪沼とその周辺/堀江敏幸 後藤明生コレクション 1 前期1 ※「無名中尉の息子」を読んだ 「内向の世代」初期作品アンソロジー(講談社文芸文庫) ※後藤明生…

★黄金虫変奏曲(リチャード・パワーズ)再読開始

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/11/17/000000 ↓ 『黄金虫変奏曲』(リチャード・パワーズ)再読開始。小説の全体を知った今では、やけに難しく詳しく書かれていたと思えたことごとくが、語り手にはぜひとも書かないわけにはいかない細部だった…

★因果推論の科学(読書中)

『因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか』ジューディア・パール ダナ・マッケンジー 松尾豊 夏目大 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS ツイッターを中断してでも読みたい本なんて あるわけないのに、今日の『因果推論の科学』はそんな奇跡を達成している。…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ(続続)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/10/14/000000 から続く パワーズ『黄金虫変奏曲』ついに読了しつつある。思いはあふれるが一つだけ言おう。 ――とぼとぼたどってきたこの豊穣さは、もう一度たどり直したときこそ、本当に身にしみるだろう。君や…

★いつか必ず死ぬのに なぜ君は生きるのか/立花隆

『いつか必ず死ぬのに なぜ君は生きるのか』 私が今ツイートかのような気になるが、じつは立花隆の著書から印象的な言葉を抜粋した新書のタイトル。 https://www.sbcr.jp/product/4815617165/ 第1章「人間とはなんだろう?」第2章「死とはなんだろう?」 書…

上弦の月とベルクソン

凪のような気分の夜もある(11月1日) * 夜更けに帰宅。上弦の月が今落ちていく。真っ黒な空。 区の図書館で哲学の棚にも行くがなかなかその気にならない。ところが先日は ふっと心が動いて『ベルクソン』と『アウグスティヌス』の小冊子に手が伸びた。NHK…

経典というテクスト〜外部不在

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480072924/ 『世界哲学史2』(ちくま新書) に大乗仏教の章がある。知識も関心も薄い領域だけど概観できればいいかと読み始めたら、どうもおかしい。なぜか「テクスト」が焦点になる。それまで口伝でしかなかっ…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ(続)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/09/10/000000 から続く 「mRNA」って何? 超過死亡の謎をめぐり日本国民は今しも改めてそれに注目していいる――のだが、個人的に3か月もかけて読み進んできた『黄金虫変奏曲』で、遺伝子の翻訳において不可欠なの…

★数学する精神/加藤文元(中公新書)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/09/25/000000 先日の対談視聴(↑)を機に、加藤文元さんの『数学する精神』(中公新書)を読んでいる。 数学する精神 増補版 -加藤文元 著|新書|中央公論新社 まだ途中だが期待を超えて刺激的。私はずっと<数…

★黄金虫変奏曲(続き)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/06/12/000000 から続く 『黄金虫変奏曲』(パワーズ)まだ読書中。 3か月たって半分をやっと超えた。 長いが、ロシアとウクライナの戦争はもっと長い。なぜ人間は戦争をするのか。世界は今年実地にそれを観察し…

★されどわれらが日々――(古き良き?共産党)

「左翼的な過激団体と共産党の関係」(茂木発言)についてだけど―― 日本共産党が1955年の六全協で武装闘争を放棄したことは周知の歴史であり、以後いわゆる新左翼・過激派とはいわば宿敵同士になるはず。武装闘争放棄の前と後のどちらの日本共産党を真に評価…

驚愕のカーゴ・カルト

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/08/05/000000 から続く カーゴ・カルト(積荷信仰)なんてものがあったことを、『神のいない世界の歩き方』(ドーキンス)で知り、仰天するばかり。人間とは… 信仰とは… 「カーゴ・カルト」とは? 私の聖典であ…

★神のいない世界の歩き方/リチャード・ドーキンス

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/07/13/000000 から続く 無神論者であるとはどのようなことか――それをイヤというほどわかりたかったら、この本は最適。 『神のいない世界の歩き方』(リチャード・ドーキンス) だがそれは「無神論者でないとはど…

現代のソフィストとソクラテス

現代のSNSやテレビでは多彩な論客たちがそのつど大衆を引きつけているが、これは古代ギリシャのソフィストをめぐる事情になぞらえられるかも――と思った。 『世界哲学史1』(ちくま新書)ソクラテスの章を読んでいた。 アテネの公的世界とは、《言葉を巧みに…

★神の子どもたちはみな踊る/村上春樹 ほか(宗教をめぐる考察)

自ずと流され今日も考えている――宗教について。 たまたま少し前に村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」を読み、神を信じる大物語ではなく小物語として奇妙に着地した感があった(ある読書会のために読んだのだが急な仕事で参加できず非常に残念) その前に…

Essential細胞生物学と黄金虫変奏曲

1950年代終わりまでに議論の的になったのは―― 《"暗号読解の問題"、すなわちRNA分子のヌクレオチドの並びに記された情報が、ヌクレオチドとは化学的にまったく別物であるアミノ酸の並びに翻訳されるしくみで、この問題に物理学から数学、化学まで、さまざま…

★現代の人工知能と「言葉の意味」。そして記号創発システム/ 谷口忠大

www.repre.org 《…「現在の人工知能はただの統計計算をしているだけだ」というように指摘することがある。しかし統計計算だからといって、それが人間の知能のモデルとして不適切だということにはならない。人間の知能だって統計計算をしているし、それは知能…

★ポン・ジュノ映画術――まさに記号論

私たちは、目の前にある街の景色も家の造形も人の風体も、考えてみれば、ことごとく、それ自体というより何らかの象徴として眺める。記号論とはそんな話であり、80年代からさんざん聞かされ気づかされてきた。『ポン・ジュノ映画術』は、その飽くなき分析が…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ

リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』を読み始めた。2段組800ページ余のたった20ページほどしか進んでいないが、もう私の一生で小説を読むのはこれが最後でいいんじゃないかと、そんなことを言いたくなっている。 たとえばフランスとオーストラリアに行った…

★『星の子』(映画と小説)

映画『星の子』 hoshi-no-ko.jp この奇異な界隈のたたずまいをよくぞ映画の主題にした。なにしろそれがずっと気になった。ほんのりした独特のクセが強い。ほんのりだけど比類なく強い。暴力や犯罪とは無縁の多幸な人たちであるにも関わらず。だからたしかに…

世界がある理由 ないわけがない/あるわけがない

先日あるところで数人で話をしているうちに図らずも「神はあるのか」という議論になった。べつに私が先導したわけでもない。みんな気持ちのどこかで引っかかっているテーマなのだろう。 改めて考えをまとめる機会になった。 ものごとがそもそも存在すること…