東京永久観光

【2019 輪廻転生】

文学

★本格小説/水村美苗

『本格小説』(水村美苗)を再読することにしたら、もう止まらない。何が面白いのか考えて、つまるところ写実が徹底されているからだと思った(もちろん虚構なのだが)。写実の日本・写実の歴史というものの上に、人々の本当にこうだっただろうという生涯が…

★優雅で感傷的な日本野球/高橋源一郎

阪神が日本一になったので、『優雅で感傷的な日本野球』(高橋源一郎)を久しぶりに読むことにした。初出は『文藝』。1985年11月号から連載が始まったようだ。 全部すーっと読んでしまった。面白いとしか言いようがない。まったく難解ではないのだった。ただ…

量子の話と小説の話

量子が実在でなく情報にすぎないのは本当かもしれない。しかしそれは、人の人生が人の想像に勝らない、というような話だろう。電子の存在も君の手の存在もあやふやであるようには、君の人生も君の想像もあやふやだ。しかし見方を換えれば、君の人生も君の想…

百間っぽい夢

久しぶりに相対性理論の本とか不完全性定理の本とか読んでいて、頭がいつになく疲労したのか、おかしな夢を見た。夜の星を眺めていると急に空が青くなってきた。なぜか太陽が出ているのだ。しかも太陽は穴になっていてそこから水が地上に流れ落ちてきた。天…

★伽倻子のために/小栗康平

「プラス松竹」忘れていた名作がまだいろいろ。 小栗康平『伽倻子のために』 こんな映画があったなあ。そもそも在日の苦闘があったのだなあ。いや在日の存在自体もう歴史に書かれるだけの出来事みたいだなあ。それどころか私は2012年にサハリン旅行したのに…

「君の考えの経路を逆にたどってみることにしよう」

「君の考えの経路を逆にたどってみることにしよう」(モルグ街の殺人)――現代ではデュパンがいなくてもブラウザの履歴をたどってみれば一目瞭然! www.aozora.gr.jp

★エレクトリック/千葉雅也

千葉雅也『エレクトリック』面白い。作家と等身大の青年が出身地で家族や同級生と過ごす日々。読む人はきっと自分が高校や子供のときはどうだったっけと思い返す。そして小説を一度でも書こうと思ったり書いたりした人なら、自分ならこれをどう振り返りどう…

★チャールズ・ブコウスキー『パルプ』

「あんたって昔から、自分に何が必要なのか全然わかってなかったわね」「そうかもしれんが、自分に何か必要ないかはわかってるさ」――チャールズ・ブコウスキー『パルプ』から(柴田元幸訳・ちくま文庫)……なおこの会話は別れた妻とふいに出くわしたときのも…

★黄色い家/川上未映子

川上未映子『黄色い家』。面白く、読みやすく、あっというまに読了。 以前の『夏物語』もそうだったが、文化資本の乏しさということをまず思った。生まれ育った家にちゃんとした本なんて1冊もなかったなというあの感じ(私の家もそんな感じだった) そして…

★イワン・イリッチの死/トルストイ

ベートーベン 弦楽四重奏曲 第14番 第1楽章 - 東京永久観光 先日はベートーベンの旋律に「本当の終わりを知らない」という歌詞を戯れのようにつけてみたが(上)、「本当の終わり」がいかなるものかは、この小説に書いてあった。苦痛・恐怖・絶望、それ以外…

言語と一緒、ツイッターと一緒

人間は言語と一緒に生きている感じなので、言語から遠ざかってしまうと調子が出なくなると思う。そして今、言語とどこで一緒かというと、けっこうツイッターとかが主なので、ときどきは何でもいいのでツイートしないと、やっぱり調子が出ない感じだ。 とはい…

★黄金虫変奏曲(リチャード・パワーズ)再読開始

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/11/17/000000 ↓ 『黄金虫変奏曲』(リチャード・パワーズ)再読開始。小説の全体を知った今では、やけに難しく詳しく書かれていたと思えたことごとくが、語り手にはぜひとも書かないわけにはいかない細部だった…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ(続続)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/10/14/000000 から続く パワーズ『黄金虫変奏曲』ついに読了しつつある。思いはあふれるが一つだけ言おう。 ――とぼとぼたどってきたこの豊穣さは、もう一度たどり直したときこそ、本当に身にしみるだろう。君や…

割れて砕けて裂けて散るかも

そういえば先日は山県有朋の歌だったが、昨日は昨日で源実朝の歌に大勢の日本国民の心が動いたことだろう。和歌の国の私たち。こちらはリフレインがなかったので、私がもう一度。 大海の磯もとどろに寄する波 割れて砕けて裂けて散るかも 割れて砕けて裂けて…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ(続)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/09/10/000000 から続く 「mRNA」って何? 超過死亡の謎をめぐり日本国民は今しも改めてそれに注目していいる――のだが、個人的に3か月もかけて読み進んできた『黄金虫変奏曲』で、遺伝子の翻訳において不可欠なの…

★黄金虫変奏曲(続き)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/06/12/000000 から続く 『黄金虫変奏曲』(パワーズ)まだ読書中。 3か月たって半分をやっと超えた。 長いが、ロシアとウクライナの戦争はもっと長い。なぜ人間は戦争をするのか。世界は今年実地にそれを観察し…

★されどわれらが日々――(古き良き?共産党)

「左翼的な過激団体と共産党の関係」(茂木発言)についてだけど―― 日本共産党が1955年の六全協で武装闘争を放棄したことは周知の歴史であり、以後いわゆる新左翼・過激派とはいわば宿敵同士になるはず。武装闘争放棄の前と後のどちらの日本共産党を真に評価…

★神の子どもたちはみな踊る/村上春樹 ほか(宗教をめぐる考察)

自ずと流され今日も考えている――宗教について。 たまたま少し前に村上春樹「神の子どもたちはみな踊る」を読み、神を信じる大物語ではなく小物語として奇妙に着地した感があった(ある読書会のために読んだのだが急な仕事で参加できず非常に残念) その前に…

Essential細胞生物学と黄金虫変奏曲

1950年代終わりまでに議論の的になったのは―― 《"暗号読解の問題"、すなわちRNA分子のヌクレオチドの並びに記された情報が、ヌクレオチドとは化学的にまったく別物であるアミノ酸の並びに翻訳されるしくみで、この問題に物理学から数学、化学まで、さまざま…

★黄金虫変奏曲/リチャード・パワーズ

リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』を読み始めた。2段組800ページ余のたった20ページほどしか進んでいないが、もう私の一生で小説を読むのはこれが最後でいいんじゃないかと、そんなことを言いたくなっている。 たとえばフランスとオーストラリアに行った…

★現代文解釈の基礎〜山月記

『現代文解釈の基礎』(ちくま学芸文庫)を読んでいたら、「山月記」が出てきて、やはり面白く、先ほど青空文庫で通読してしまった。 https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/624_14544.htm 次にWikipedia「中島敦」をブラウズすると、思いがけず質・…

★血と暴力の国(ノー・カントリー)

年末年始に用意した本の1つが『血と暴力の国』(映画『ノーカントリー』の原作)だったが、手にした日にほとんど読んでしまった。映画の静まりかえった緊張がそっくり蘇り、やめられなかった。原作に忠実な映画というより、見据えている何ものかの様相が完全…

夏の宿題がまだ片付かないのに、もう12月だ

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2021/09/27/000000 からの続き 実はあれからジム・ホルト『世界はなぜ「ある」のか』を改めて読んだ。宿題の本題である「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」を考えるのに最良の副読本。文庫が出ていたので線を…

★舞踏会へ向かう三人の農夫

《自分には合わなそうだなと思う。それでこの小説についてはあきらめることにした。くやしいが、仕方ない》 この人はいつもこのように正直そのものだから、この人の言うことは信頼している。 とはいえ、私にとって『舞踏会へ向かう三人の農夫』は、これまで…

文学国語と論理国語

文学国語と論理国語、さて小林秀雄はどちらに入るのか。気になる。 言い換えれば批評とは何ぞや?

★囚人のジレンマ/リチャード・パワーズ(再読)

リチャード・パワーズ『囚人のジレンマ』を思い立って再読中。残りの人生はそう長くない(そう短くもないが)。本当に熟読したい小説は多いようでそう多くない。『挟み撃ち』も再読して本当によかった。 前に読んだのは2009年。 https://tokyocat.hatenadiar…

★挟み撃ち/後藤明生

先日ある人と久しぶりにオンラインで話をしたとき、ふと『挟み撃ち』(後藤明生)の名が出てきた。猛烈にまた読みたくなって読んでいる。何十年ぶりか。猛烈に面白い。 ただ、この小説の面白さは独特なので、どう面白いのかを自分なりに分析したくなる。しか…

★高慢と偏見/ジェイン・オースティン(読了)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2021/05/12/000000 から続く ↓ 『高慢と偏見』(ジェイン・オースティン/大島一彦訳)は読み終えている。映画でストーリーを知っていることもあり最後まで面白く進んだ。また、ピンポイントの挿絵が情景の想像を大い…

★高慢と偏見/ジェイン・オースティン

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(中公文庫)を読んでいる。 高慢と偏見|文庫|中央公論新社 先日チューリングの映画『イミテーション・ゲーム』で女優キーラ・ナイトレイが印象的で、それを機に彼女が主演の『プライドと偏見』を視聴することになり…

★クララとお日さま/カズオ・イシグロ

カズオ・イシグロ『クララとお日さま』感想 https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2021/03/06/000000 からの続き ↓ 中断していたが再スタート。クララはアンドロイドと思われる。しかし彼女たちは人を選べる立場にない。店舗のショーウインドウで選んでく…