東京永久観光

【2019 輪廻転生】

我ロンドンに到着せり


ヴェルヌの『八十日間世界一周』を光文社古典新訳文庫で読んだ。1872年出版の名作。
八十日間世界一周〈上〉 (光文社古典新訳文庫)


ではクイズ!


Q1(難易度★★★)
主人公はロンドンを出発しロンドンに到着します。どういうルートだと思いますか? 世界地図に記しなさい。


Q2(難易度★)
ルートの大半は船を使いますが、鉄道を使った国がヨーロッパ以外で2つあります。どの国とどの国でしょう?


Q3(難易度★★)
途中、日本には立ち寄ったでしょうか?


Q4(難易度★★★★)
船と鉄道以外の乗り物が2つ使われました。何と何でしょう?


答はウィキペディア(下のリンク)でわかる。が、知らずに読んだほうがわくわくする。特にQ4は物語のハプニングでありハイライトでもある。ちなみに上記文庫本では冒頭にルートの地図が記載され、すべてネタバレになっているので注意。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E5%8D%81%E6%97%A5%E9%96%93%E4%B8%96%E7%95%8C%E4%B8%80%E5%91%A8


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…といいつつ、以下はいくらかネタバレする。


1872年などという年が本当にあって、そんな昔にも日本やイギリスという国は実在し、蒸気の船で旅行するとか、部屋が暗くなったらガス灯をつけるとか、マジにそんな暮らしをしていた人々がいたのだということが、なんと不思議なことかと思う。

ちなみにきのう『東京物語』をみたら、季節は夏で、登場人物は始終暑そうにうちわを使っているのが印象的だった。1953年。さすがに生まれていないが、私の知っている日本の夏もずっとそんな感じだった。記憶にある1960年代にもエアコンはもちろんなく、車もエアコンがなくて夏は窓を開けるしかないが、未舗装の砂利道がけっこうあって埃がすごいから窓も明けられない、なんていう暮らしをしていた人たちが本当にいた。なんと不思議なことかと思う。
東京物語 [DVD]


1960年代の日本は実体験なのに今となっては幻みたいだ、ということだ。体験していない想像の世界みたいだということだ。

しかし、1960年代の日本にも人々は生活していて朝顔や虫籠や砂利道の夏があった。もはや小説や映画みたいだが実在したことは疑いようがない。だから、1872年のロンドンの社交場や開国したばかりの横浜の港や開通したばかりのアメリカの大陸横断鉄道も、私には小説や映画でしかないが、やっぱりそれは実在し人々もそこに実在していたのだろう。

私は震災後の東北に行ったことがないので、津波地震もどこか幻のようでなくもないのだが、破壊された土地や苦しむ人々もまた実在であるはずだと、思い直す。

なんだかしらないが、この世というのは素晴らしいのかもしれない。長い歴史の大半は他人事のはずだが他人事とも言い切れないのかもしれない。

保坂和志が『〈私〉という演算』で、いくらか関係することを書いていたのを思い出す。「写真の中の猫」か。
<私>という演算 (中公文庫)


 *


ところで、『八十日間世界一周』の主人公フォッグ氏は素性のわからぬ人物であるうえ、内面描写もなされない(今回あえてそう訳したところもあったらしい)。しかしそのせいか言われるほど魅力的な人物に映らなかった。かなりぎりぎりの日程で計画を立てているくせに八十日間で一周できると確信できるその根拠も実は不明。あと、札束ですべてを解決するのは正直どうかと思った。


ちなみに、小説の結論が脱力的におもしろかった。
《だが、この旅で何を得たのだろうか? ある町から別の町へ、せわしなく移動を繰り返すことによって、どんなよいことがあったのだろう? この旅はフォッグ氏に何をもたらしたのだろう?》(中略)《人はたとえ、まったく意味がなくても、世界一周をするのではないだろうか?》=終=

なんだ、まるで「八十日間阿房世界一周」じゃないか。
第一阿房列車 (新潮文庫)


だが旅は無駄の代名詞。人生がまるきり無駄だったらいささか落ち込むが、少なくとも旅なんてそれでかまわない。


ところで、フォッグ氏は賭けのために旅に出たが、『深夜特急』もそうだった。ゴールがロンドンなのも同じ。
深夜特急1?香港・マカオ? (新潮文庫)


Q5(難易度★★★★★★★★★★)
 賭けに勝ったかどうか、そこに人を騙すみたいなトリックが絡むところも両者は似ていますが、知っていたらtwitterなどで自慢しなさい。