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【2019 輪廻転生】

★死んでも何も残さない/中原昌也 

 死んでも何も残さない―中原昌也自伝

学校的勉強的な評価軸からみれば、この人の10代はクズだったことが改めてわかる。では、クズのような子供だったにもかかわらず、希有な芸術家になったのだろうか? それとも、クズのような子供だったからこそ、希有な芸術家になったのだろうか? そこが結局わからない。

クズのような子供が、たとえばこうして文章でお金を稼ぐように強いられると、おしなべて素晴らしい真実を照らし出してしまうものなのか?

以下引用。

《高校には四年間いた。二年生まで進級したのだけれど、一年生二回、二年生二回で終わり。ハハハ。一回しか進級したことがない、筋金入りのバカである。でも、中退した頃には「暴力温泉芸者」の名前で、アメリカでレコードを出していた。もう、自分の手元にはないけれど、ザ・ゲロゲロゲゲゲというノイズバンドの山之内純太郎という人がアメリカのRRRe.cordsとコネクションがあり出すことができたのだ。そのレーベル、まだやっている。
 山之内さんとは、高校一年の頃から知り合いだった。すごくつまらない学校だったので、ひどいバンドを呼んでライブでもやろうかな、とお金もないのに考えており、それで連絡したはずだ。日本のノイズバンドは全然聞いたことがなかったので、御茶ノ水の「Janis」で借りたりして、とても面白いと思った。非常階段、メルツボウ、はなたらし、なども、このころからよく聞くようになった。
 日本のノイズシーンが一番盛り上がった時からは、ちょっと遅れている。高校生だったから、一番どうしようもなさそうな人とコンタクトとってしまった。そういうと、山之内さんは怒るだろうけども、僕はずっと恨まれているのだから、仕方がない。あの頃やっていた音は、今とは全然ちがう。もっと単調で、しょぼかった。自分が出していたそれっぽい音と、本物とは何かがちがっており、いつも敗北感と徒労感があった。地元の友達と一緒に録ったりしながら、何がちがうのだろうと、ずっと考えていた》(第五章 暴力温泉芸者は高校四年生)

《貧乏な都会っ子は不幸だ。共感は得られないし、生まれ変わることもできない。世界中のモノや情報が腐るほど視界に入ってきても、結局、手に入れることができない境遇。寂しくて、みんなが好きでないマイナーなものに想いを寄せるしかなかった。田舎にいたら、マンガやヤンキーに行ったのかもしれないけれど、バブルの頃の東京には何もかもがある不幸があった》(同)

《僕のエロ本時代を誰も知らないだろうと思っていたら、野間文芸新人賞を受賞した時、初対面だった選考委員の川上弘美さんに指摘された。あの頃は、とにかくいろいろ書いていたけれど、ギャラも安かったかし、どうでもいい文章だった。エロ本の編集者に偏見はないし、自由な感じが気楽だったけど、どうも疲れるジャンルだった。これだけ多岐にわたって無責任にやってきた人というのは、なかなかいない。その自負だけはある。でも、自分を俯瞰できるのは自分しかいないから、これが一番厄介だ。ほとんど頭の中が分裂しそうになる。
 つながりのないまま、頭の中に秩序を作ることもなく、とにかく、いわれたことをやっていた。だれも責任を持ってくれないのに、いろいろやってばかみたいだ。でも、人に迷惑をかけているとはいえ、四十までたいした仕事もせず生きていられるというのはすごいことだと、最近よく思う》(同)

《なぜみんな共感し合わなければならないのか。共感など全部うそぱっちだということを、率先して理解しなくてはいけないのに、逆だ。本当に腹が立つ。人はみな、なぜ生きているのかよくわからないまま、一人で死んでいく。どう頑張っても人間は孤独だし、ほんとうは何でもない。しょせん、それだけ》(同)

《人からどう見えるかわからないが、多少、工夫があるとすれば、やるからにはちょっと何か新しいことを、という気持ちはあったということか。書くといっても、元ネタがどこかにあって、ぱくっているから文章ができるわけで、元がなければ何もできない。覚えていないけど、頭の中で、無責任に切り張りしているだけである。
 だから、自分の中では、文章表現に対して、そんな大層なもんじゃねえ、と思っているだけなのに、付随しているものが、もっと下らないと思うものばかり。たとえば、権威。たいしたことないのに偉そうにしている作家。もちろん、作家がそういう人ばかりではないけれど、薄ら寒い光景が広がっている》(第六章 世間の茶番には勝てん)


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<読んだ経緯5.17> 引用だけで頭を殴られた気分… 「妄想を否定する唯一の手段は、小説を書かないこと。つまり、現実を物語として構築しないこと。(略) だから、ピンチョンみたいな下らないものにうつつを抜かしちゃいかん」(!)   http://t.co/1RP0x3x5


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「自分より年上でだめっぽい人を見ると安心する」
 http://d.hatena.ne.jp/pha/20111227/1324973904