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【2019 輪廻転生】

★『星の子』(映画と小説)

映画『星の子』

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この奇異な界隈のたたずまいをよくぞ映画の主題にした。なにしろそれがずっと気になった。ほんのりした独特のクセが強い。ほんのりだけど比類なく強い。暴力や犯罪とは無縁の多幸な人たちであるにも関わらず。だからたしかに強烈に面白かった。

永瀬正敏原田知世が、内心まったく引っかかりはなかったのかと疑いたくなるほどハマっていたのが、最も印象的。「あんな有名な俳優があれをやってたのか…」という実話の驚きに近い。とはいえ、永瀬正敏原田知世のような人(2人が演じたような人)はこの世に実際わりと多くいると思う。

芦田愛菜のほうは、本人の賢さや身上をある程度知っているから、ああした役はどうなんだろうといぶかりつつ鑑賞し始めるが、やっぱりあのような子どもに なるようにしてなるしかないんだろうなという、虚実入り交じった感触が見事に伝わってくる。よい役者(本当にそう信じているのでないかぎり)

 

それでも、なんでこの奇異な世界をわざわざ描いたのかは、最後まで未消化のままだった。それで原作の小説(今村夏子)も読んだ。そうしたら、ああなるほどと思えるところが大いにあった。

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ちひろにとって、”あやしい宗教”がどんなものかというなら、あやしい恋愛やあやしい友情がそんなものなのと同じなのだ。いや、いかなる宗教もいかなる恋愛や友情も、錯覚や妄想なくしては生成されない。その錯覚と妄想はみなとても似ている。いとしい宗教、いとしい恋愛、いとしい友情と呼んでもよい。

《わたしにとっては生まれてはじめてのドーナツ屋だった。想像をはるかに超える感動的なおいしさで、ひろゆきくんの存在を忘れて夢中で食べた。チョコレートが上にかかったものを食べ終え、次に粉砂糖がまぶしてあるものに手を伸ばすと、「それはおれのだ」とひろゆきくんに言われた》 p.72

《「西島高校って修学旅行、オーストラリアなんだ」「だから?」「オーストラリアだぞオーストラリア。いきたくないのかオーストラリア」「修学旅行先で志望校選ぶの?」「悪いか」》p99 

ーー人生とはかくもチグハグでトンチンカン。新宗教を生きる人もその一例をやっている。充実と壮大の一例を。

 

そういうわけで、映画『星の子』は、たとえば映画『DISTANCE(ディスタンス)』とは大きく違った。それから、今村夏子を読んだのは芥川賞「むらさきのスカートの女」以来だったが、「むらさき」で味わった 入り込めそうで入り込めない距離感が、今回ふしぎだが消えてしまった感がある。