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【2019 輪廻転生】

★黄金虫変奏曲(続き)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/06/12/000000 から続く

 

『黄金虫変奏曲』(パワーズ)まだ読書中。

3か月たって半分をやっと超えた。

長いが、ロシアとウクライナの戦争はもっと長い。なぜ人間は戦争をするのか。世界は今年実地にそれを観察している。

ではこの一冊は…。なぜ人間は読書をするのか。読む人は皆それぞれ実地にいやというほど観察している。

 

 *

 

(9月21日)

DNAに記された3文字の単純な並びに従い、アミノ酸がただ単純に並んでいく。それだけで何故これほど複雑な人体が製造できるのか、運営できるのか。鍵となる仕組みは酵素。『黄金虫変奏曲』も半ばを過ぎて酵素が浮上してきた! 先日の『神のいない世界の歩き方』も実はそれを力説していた。

遺伝暗号を知っていても酵素を知らないとしたら? それは貨幣を知っていても金融を知らないようなものだろうか? 良いたとえが思いつかない。

リチャード・パワーズの場合、変奏に次ぐ変奏の果てに、たとえば次のような記述に至っている。

 

《すべてのうずき、すべての切望、すべてのお買い物、口にされるすべての言葉が、あふれるベールをまとって広がっていく酵素のメッセージの交換台で発生する。これに比べれば、ナイアガラを流れ落ちるすべての水滴の足し算さえ、単純な大学レベルの微分方程式に見えてくる》p.531

《これを知ったことで、彼は無口な、時間を守る、几帳面な、礼儀正しい、控えめながらも陽気な、人と接するのが苦痛な、少食だが地味に雑食性の、言葉扱いは見事だが強いられないかぎり喋らない人間になった》《なぜ偶然は彼を作ったのか? この世においてそれを知り、愛し、それに使えるため》

 

いったい何のことか・何が書いてあるのかと思うかもしれない。しかし『黄金虫変奏曲』の文章はどこを切ってもそんなふうだ。しかし並んだ文字列をひたすら読んでいるうちに、なんらかの酵素が現れて、その意味を励ましたり宥めたりする。そうして初めて読者は驚異的な1つの生物を目にする。

 

↓ (以下に続く)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2022/10/14/000000