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【2019 輪廻転生】

★スタンダール『赤と黒』(続)

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2020/07/30/000000

↓(続)

 

スタンダール赤と黒』をまだ読んでいる。

下巻に入ると、ジュリヤンと貴族令嬢マチルドの恋の駆け引きみたいなことが グダグダと続き、それは純真だけど幼稚にも見えて、少々退屈だった。

そうこうしているうちに、ジュリヤンはついに、マチルドの部屋の窓に外からはしごをかけて よじ登っていくという、上巻でレナール夫人にも行った得意の戦法にでる。ジュリヤンの心情もマチルドの心情もあまりも激烈なので、これって小説だからなのか、19世紀だからなのか、首をひねる。

ジュリヤン〈あの娘にキスしよう。最後のキスだ。それから自分の部屋の戻って自殺する……。この唇をあの娘の頬に触れさせてから、死んでやる!〉

マチルド「あなたは私の主人、私はあなたの奴隷よ。そのくせ反抗しようとしたのだから、ひざまずいてお許しを乞わなければならないわ」「いつまでも私を支配してちょうだい。奴隷が反抗しようとしたときは、厳しくこらしめてね」

その直後、マチルドは自らの髪をばっさり切り、「服従のしるし」としてジュリヤンに投げてよこす。いやはやと言いたくなりつつも、互いに大げさなツンデレを繰り返すばかりだった二人の関係が、ここでついにブレイクしたのだと思い、わりと感動した。

しかしながら、マチルドは「奴隷」とか「服従」とか口にしているが、もちろん、貴族令嬢のマチルドに対して、平民出身の住み込み書生のジュリヤンこそが、服従しなければならない身分と言える。

だからマチルドは翌日には、こんなふうに思い直す。《農民のせがれで神父の卵などという男に、自分を操る権利を与えてしまったのだと思うと、情けなさのあまり、いわば打ちひしがれてしまった。〈これではまるで、下僕相手に過ちを犯して、後悔しているようなものだわ〉

 

一般に、恋愛の物語には、恋愛の障壁というものが必要になろうが、この19世紀半ばなら、身分社会というものが決定的な障壁として立ちはだかっていたわけだ。そんなことを当然ながら思い起こす。『赤と黒』が時代を描いた小説なら、2人の恋愛を通してこそ時代はあらわになっていると言えそうだ。

 

では、現在の恋愛ならではの障壁とは? 現在の恋愛小説ならではの障壁とは? たとえばジェンダー的なゆらぎというのはあるかもしれない。19世紀に負けないほどの貧困というものも効いたりするだろうか? 創作人物との恋愛が2次元や3次元の障壁をどう超えて成就できるか、とか?

 

↓(続)

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