近ごろDVDをよくレンタルするようになったのだが、今後はこれもここに淡々とまとめていくことにする。自分があとから振り返るのにブログはけっきょく一番便利だし、あんがい唯一の記録になるかもしれないのだ。
★ミスト/フランク・ダラボン asin:B001CJ0UXA
唖然とする展開、予想外のラスト(スティーブン・キングの原作にはなく、監督のアイディアだったらしい)。この後味の悪さは強烈で、ここしばらく複数の友人と映画の話になるとまず薦める一作だった。化け物映画ではあるのだが、薄っぺらくない。アメリカに住む人々の多層性と均質性の両方を考えさせた。
それにしても、われわれ日本人はアメリカ映画のおかげで、アメリカの町の様子や人々の顔やメンタリティーを垣間見ることが異様なほど多い。アメリカ以外の多数の国の映画をみてアメリカ以外の多数の国の事情を垣間見ることがきわめて少ないのと比較して(何度か言っているが)。もちろんアメリカ人のほうは日本映画などあまり見ないだろうから、彼らの多くが日本に来て日本の町や顔や食に初めて触れたとき、まずは相当な違和感が先に立つのではなかろうか。われわれが映画でよく知っているアメリカを初めて訪ねた場合と比較して(とはいうものの、まだアメリカに行ったことがない私が実際にアメリカに行ったら、仰天することの連続だろうとは思うが)
★クローバーフィールド/マット・リーヴス asin:B001B9CMQE
新宿ツタヤで昨年のユーザー人気No1とか表示されていたので借りた。これもまあ「ミスト」と同じく化け物パニックだが、こちらは災厄に遭遇した当事者がハンディカメラで撮っていた記録を見せるという叙述が独創的で、それが奏功してリアルに怖い追体験になる。http://www.youtube.com/watch?v=-PemvVRYB1s
★ハプニング/M・ナイト・シャマラン asin:B001IKYRK0
思えばこれまたパニック映画。硬質のトーンは「ミスト」と似ているが、「ミスト」では化け物が一部だけはあっさり姿をさらすのに対し、こちらは化け物の正体がずっとわからない、化け物の仕業かどうかすらおぼつかない、そこが独特といえば独特。いやそれどころか、その答えはわからずに映画は終わってしまう。それは反則もしくは失敗とみなす人もいるようだ。ただ、かえって「いったいあれはいかなる異変だったのだろう」と尾を引く映画だとも言える。しかも、もしこんな異変が本当にあるとしたら原因は現実には何が考えられるのだろう、映画ではミツバチや植物が関係するかもという思わせぶりがあったけど、という具合に謎をめぐる思案も引き延ばされる。
★ショーシャンクの空に/フランク・ダラボン asin:B0001CSB76
「ミスト」の勢いで、ダラボン監督のこの傑作がまたみたくなった。毎度期待に違わず素晴らしい。とりわけ、レッド(モーガン・フリーマン)が出所して以降、半信半疑で聞いていた黒曜石の下に本当に小箱が隠されており、そして向かったメキシコの海岸、アンディ(ティム・ロビンス)と再開するロングショットのラストシーンまで、何度みても全身が感動にふるえる。いくつもの出来事や台詞が皮肉も効いた深い伏線になっているのも見事。モーツァルトのレコードが刑務所の空に響くシーンもよい。ダラボンという日本語の響きもよい。
少し前にイギリスHMVの客が「最も感動した映画」を選んだときのベスト1が「ショーシャンクの空に」だったという。実際この種の感動というのは他の映画ではなかなか思い当たらないねということを少しあとで友人と話した。日本映画だとなおさらないように思う(思い出さないだけ?)
★ミリオンダラー・ベイビー/クリント・イーストウッド asin:B000AC8OV0
「ショーシャンクの空に」でモーガン・フリーマンがもっとみたくなり、まだみていなかった評判のこの映画を借りた。まさか最後にあのような事態になるとは。しかしそれ以外は予測どおりの展開だったともいえる。「ミスティック・リバー」のほうが私は見応えがあった。
★シックス・センス/M・ナイト・シャマラン asin:B00005FPRY
これも人気の一作だが、「ハプニング」の監督ということで初めてみたしだい。「あーそうかーそうだったのかーなるほどー」とうなるラストはたしかに面白かった。しかし「ハプニング」の謎の解けなさの方が、出来事の記憶としてはより強く残る。
★未来世紀ブラジル/テリー・ギリアム(1985) asin:B00005R22R
公開当時にみて奇妙な印象だけが強く残っていたものの、全体の設定などはすっかり忘れているため、ずっとみなおしたいと思っていた。今回は十分味わいつくした気がする。
80年代に描かれた近未来。そこから時代は隔たってもう今じゃ現在と言っていいほどであることが感慨深い(長く生きた)。そしてその架空だった近未来は、現在に酷似しているところはちゃんとある。都市と住宅には無数のダクトが張りめぐらされているのだが、これはインターネットの代替物だと考えられる。そこを情報だけでなく物質もまた行き交うというのがなにしろ面白い。紙による管理社会もむしろ徹底している。もうひとつはテロの頻発。それも21世紀になってから実現したではないか。では管理徹底社会の風穴としてテロは有効なりや。それはこの映画でもこの現在でもよくわからない。
ごぞんじモンティ・パイソン出身のテリー・ギリアムがアメリカに渡って作った映画で、シニカルさや過激なジョークに妙味がある。同じころ流行った「ブレード・ランナー」と比較するとそのテイストの違いは際だつ。
★パビリオン山椒魚/冨永昌敬 asin:B000N6SPCQ
自主制作「亀虫」が注目された冨永昌敬監督のメジャー第一作。話の筋や調子が藪から棒に変転する。それを笑わないかぎりは戸惑うしかない。
音楽担当が菊地成孔で、DVDの副音声に、その菊地と監督の全編を通じたおしゃべりがおまけとして付いていた。お気楽なうえに、この映画の展開を理解させるための手筈が、監督にははっきりしていても一般観客にはどれほど分かりにくいかが、菊地の素朴な疑問によって次々と明らかになり、監督はその都度素直に反省する。とても愉快だった。
しばらくしてツタヤで、ある若者が「パビリオン山椒魚」を指して「これみたよ。これほどつまんない映画も珍しいぜ」と友達に愚痴っているのを聞き、おかしかった。
★ダーク・ナイト
これも噂だけは昔から聞いていて、どんな趣向なのか興味津々だったが、映画の叙述自体に意外さのカナメがあったわけで、噂どおりにハマった。
★張込み/野村芳太郎(1958) asin:B000BKJF2S
昭和33年のモノクロの日本。冒頭、刑事2人が横浜から九州まで行く列車のシーンをしつこく見せる。新幹線のない道のりはとても長いが、旅情を誘う。さだ子(高峰秀子)が遠出する場面でも、ひなびた風景が今はなき遠い昔を忍ばせる。日本の国民的郷愁の在りかは、やっぱりこの時期の映画そしてこの時期の風景ということになるのだろう。原作は松本清張。ドラマ化もよくされており、近年ビートたけしが演じたのを見た。
全体に力が入っている割に全体に空回りしていて、どうも消化不良。そこで本家のNHKドラマ「クライマーズ・ハイ」もみた。そっちのほうが明らかに親切で上質で感動できるものだった。
★BUG(米) asin:B001KU1J9A
これも叙述自体に仕掛けがあったということになるか。
★ブロークン・フラワー/ジム・ジャームッシュ asin:B000I8O8Y8
ジャームッシュはやっぱり好きだというしかない。それにしても彼の映画は、ペーソス、ユーモア、サプライズ、そういったものがメインの味になって久しい気がする。デビュー当時は空虚さ、徒労感、疲れといったものがそれ以上に大きかったように思うのだが。この映画のストーリーはなんとなく小説っぽい、というか、小説でしっかり読み直したいかんじする。主演はビル・マーレイ。過去と現在に翻弄される孤独な独り者にぴったりだった。
★4ヶ月、3週と2日(ルーマニア) asin:B001B4LQDY
よく知っているものを実際に見るために旅行に行くというところはあるが、そんなことより、まったく知らなかったものに出くわす旅行のほうがはるかに面白い。映画も同じ。だから、ルーマニアの映画というだけで、しかもチャウシェスク時代の住宅やホテルが映っているというのだから、私にはもう勝ち(価値)は保証されている。東欧とはただそれだけで惹かれるのだ。これまでモスクワやウクライナのキエフは旅したことがある。カザフスタンやウズベキスタンの都市部もソ連時代の名残でたぶん東欧っぽいたたずまいだった。その旅で出くわした街や建物や部屋のことを思い出しながら鑑賞した。2007年カンヌのパルムドール。
これは「ミリオンダラー・ベイビー」や「クラッシュ」の脚本を書いたポール・ハギスの監督ということでみた。
★上海家族/ポン・シャオレン(中国) asin:B00077D9KE
現代上海の住宅事情というか、引っ越し映画というか。最後に住むことになる川沿いのアパートは眺めがいい。あれは、昔からバックパッカーの定宿になっている浦江(プージャン)飯店の近くではないか、という気がしてならない。高度成長期東京の引っ越し映画といえば「赤ちょうちん」(藤田敏八監督、秋吉久美子主演)がある。
★キムチを売る女/チャン・リュル(中国・韓国) asin:B000X3C1HE
明らかに北野武を思わせる寡黙な映画。そうした映画の常か、重要な出来事がしばしば省略され、それと裏腹に何でもない出来事がやけに長い。とくに個性的で印象的だったのは、真正面や真横からのショットが多様されていること。なお、キムチはアップにならないし、原題は「芒種」でキムチとは関係ない。中国や韓国でも芒種って言うのだろうか。
★戦場のピアニスト/ロマン・ポランスキー asin:B0000896HN
事実としての重み、奇貨としての貴さ。じつに上手く作ったドラマという感じもしたが。ポーランドについて、ナチスとユダヤ人について、そしてあの戦争について、こうして少しずつでも実感できるのは、なによりよいことだ。
ところで、主人公はピアニストなのだからそれなりの名家出身なのかもしれないが、その最初に住んでいた家の室内は、とても上品で上質に感じられた。最後にかくまわれた部屋すら、場合によっては一晩泊まってみてもいいと思わせるところがあった。それだけ、現代東京平民の住環境がひどいものだということかもしれない。ぼろい、狭い、安っぽい。——だけれども、そうした生活には過去のどの時代どの場所にもない自由さと便利さが伴っていることも、見逃すべきではないだろう。ネットがあり、コンビニがあり、ファミレスがあり、ツタヤがある。電車に乗ればどこにでも行ける。何の文句があろうか。われわれの豊かさの実質とはそういうものに支えられている(映画とは関係のない話になった)
★ぐるりのこと/橋口亮輔監督
以上3作については → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090406#p1
★家族/山田洋次 出演:倍賞千恵子, 井川比佐志, 笠智衆 asin:B0019LSDOO
上に書いた「張込み」は1958年(昭和33年)だが、こちらは1970年(昭和45年)の日本。しかも長崎から北海道まで文字通りのロードムービーで、時代そのものの記録の意味合いも濃厚だ。途中の大阪では万博会場にまで出かける。「幸福の黄色いハンカチ」も好きだが、山田監督としても倍賞千恵子としてもこの一作のほうが優ると言いたい。痛切さをじっと見つめ続け耐え続ける笠智衆も素晴らしい。寅さんや小津映画の笠智衆よりよい。「幸福の…」と同じくちょい役で出てくる渥美清はどちらも甲乙つけがたくよい。だいぶ昔に一度見た映画なのだが、今はもう忘れられた名作というところではないだろうか。
★実録・連合赤軍 あさま山荘への道程/若松孝二 asin:B001MSXHN6
忘れていたので追加(5.18) これがキューバや中東や911の話ではなく日本の話なのだとは信じがたいところはあるが、あれほど特異な結果に至るのにこれほど特異な道程があっても、けっしておかしくはない。
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手元にある案件は見たその日にさっと処理してしまわないと、すぐ別の案件がどんどん積み重なって身動きがとれなくなる。ということを今回の繁忙期にイヤというほど学んだ。(そんなことにやっと気づくなんて、お前いくつだと思ってるんだ、という反省のほうがむしろ大きいが)。ともあれそんなこともあって、迷ってる暇があるなら半端でもいいから記録してしまおうと決意したしだい。(よく知られた作品を今さらみて、すでにあふれるネット情報に、いったい自分が何を加えられるかとは思うのだけれど)
◎2009年 映画DVD鑑賞 (2) → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090620#p1