《「メキシコに壁の建設費を払わせる」この暴言をジャーナリストは文字通りに理解しながらも真剣には受け止めなかった。しかしトランプ支持者はこれを文字通りには理解しなかったものの主張を真剣に受け止めたのだ》
そう分析しているのは、とても説得力のある以下の記事だ。
*
……それはまるで、小説という長々しい虚構の中でほんの二度か三度だけ巡ってくる決め台詞のひらめきのようではないか!
今しがた読んでいたページの例でいえばーー
「テレビジョンという悪魔は、いずれこの国のみならず、世界全体を滅ぼすだろう」
もうひとつ。
「たかだか始まって数百年の近代資本主義に比べたら、人類の歴史のほうがよほど長いじゃあないか! それなのにどうして人間は、金無しでは一日たりとも生き延びられない、情けない生き物になってしまったのか!」
このような台詞は、じつはみな、聞いたふうな文言であり、誰でも思いつく理屈にすぎないのかもしれない。しかし、それらは長く強い語りの魔力のなかで、ときに決定的な真理として読む者や聴く者に響いてしまうのだ。
(日本蒙昧前史/磯﨑憲一郎)