東京永久観光

【2019 輪廻転生】

2009年 映画DVD鑑賞 (2)


シークレット・サンシャインイ・チャンドン(韓国) asin:B001H1FXFS

中盤になって主人公(女)の心境がある意表をつく急変をとげるので、いったい何の物語かといぶかしく思う。ところがまだ続きがあり、やがて「はーそうきたかったのかー」と得心することになる。ただそれはかなりどんよりした溜息でもある。このストーリー自体による胸騒ぎを逸するのは惜しいので、下調べなしの鑑賞をお薦めする。

韓国の南端に近いところに密陽という市がある。ハーレクイン・ロマンスみたいなタイトルはその地名の英訳。実のところ特徴もなく退屈な街のようで、ソン・ガンホが演じる自動車修理の田舎くさい男や、うわさ好きの洋品店の女や、キリスト伝導に熱心な薬屋の夫婦らがいる。夫を亡くした主人公の女は男児を連れてソウルからそこに引っ越してくるのだ。

しかしいかにありふれていようと、初めての土地とは道路も町並みもとりあえず見る者をわくわくさせる。もう十分映画に映すに値すると思ってしまう。それはべつに前橋でも岡山でもいい。もちろん韓国という日本に似た半知りの国のしかも地方都市とくれば、それだけで私には面白くてしかたない。

韓国映画を多くは知らないけれど、このイ・チャンドン監督は『ペパーミント・キャンディー』(1999)がその最高峰というべき傑作だったので、新たに借りてみた。

それにしても今回のソン・ガンホは、あるいは今回ソン・ガンホが演じた男は、特に味があった。まあ馬鹿といってもいいし偉大といってもいい。肯定してみればぐっと好きになり、否定してみればぐっと嫌いになる、そんなところか。女の人生にも救いがないとも救いがあるとも感じられるが、それと呼応しているのだろう。さらにそれは、日本や韓国のチンプな都市のチンプな共同体でチンプに生活していく私たちの、人生それぞれが「馬鹿」とも言えるし「偉大」とも言えるのと同じことではないだろうか。最後の不思議な1カットも、なんだかそんな白黒つかない気分にさせる。

女優はチョン・ドヨン(どよんという日本語は主人公の境遇に似ている)。この映画でカンヌの最優秀女優賞を受けた。

http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20030527#p1ペパーミント・キャンディー


オアシスイ・チャンドン(韓国) asin:B00068X5HQ

こちらも同じイ・チャンドン。またもや主人公をひたすらひどい目にあわせる監督だなと思う。重度脳性マヒで顔面や手足がうまく動かせないヒロインを使い、ふだんあまり想像もされないし映画でもめったに目にしない場面を、やりすぎというほどに見せる。なにしろそのショッキングさ。私だけでなくヴェネチアもそれに参ってしまったのだろう(新人俳優賞と監督賞)。その女と結びつく男も、刑務所から出たばかりで家族から激しく疎まれている。女だけでなくこの男にとっても、現世の社会事情はきわめてひどい障碍になる。彼の仕事ぶりや女への接近の仕方をみてまずそう思う。さらには、二人が単純に思いを通そうとすれば、このアホな社会は誤解と悲劇しか生まないのかと、思い知らされて話は終わる。男優はよく見ると『ペパーミント・キャンディ』で主役だった人( ソル・ギョング)。その変貌ぶりというか、徐々に明らかになるその微妙な演技の違和感のなさに、女優の演技を超えてすっかり感心した。


チェ28歳の革命 asin:B001UDSXLO

革命とは要するに戦闘すなわち鉄砲や殺人のことなのか。そんな思いにかられる。繁栄と平和のうちに過ごせる時代や地域や階層の者にとって、本気は狂気。でもそうすると、チェ・ゲバラの思想や行為はしばしば手放しで賞賛される一方、今なおそれなりにさまざまに本気の革命を志す人たちが、ただ狂気としか評されないのは、ちょいと可哀想。その人たちを非難するならチェ・ゲバラも同じくらい非難しないと不公平なのではないか。あるいは、「当時のキューバは偉大であり、かつ現在のキューバは馬鹿である」という理由はあるのだろうか。


麦の穂をゆらす風ケン・ローチ asin:B000NIVIPA

独立とは要するに…(以下同) 


太陽ソクーロフ asin:B000MEXANI

イッセー尾形がなじみの役者であるごとく、昭和天皇という人物についても、ソクーロフはともかく、私たちは十分知識があるのだ。描かれた彼の言動やキャラクターに予想外のところはなかった、ということがそれを裏付ける。私が生きてきた昭和の後期、皇室はとくに隠されてはこなかったし、自由に想像・批評することも国民の内面ではタブーなどではぜんぜんなかった。そう捉え直していいのではないか。

ともあれ、この映画の体験自体は、夢を思い出しているかのようで、物静かな、起こっていることの位置づけを放っておくのがむしろ心地よいような、そんなひとときだった。


エドワード・ヤンの恋愛時代(台湾) asin:B00005ULOI

人物たちはさほど若くはないが、これは青春映画だろう。未熟。過剰。そしてそうした実感をもう長いこと忘れていたことを知る。私はそれを乗り越えたわけではない。うまく距離をとることを覚えた。だから彼らの心の揺れや痛みは、今もただちに共感として蘇る。中年が美しくもカッコよくもないように、青年もたいして美しくもカッコよくもない。ただ、青年がその輝く生身をさらすのは、あまりにも短い時間だった気がする(後から思い出すことは永遠にできるけれど)。いや中年時代も同じだったと、やがて悟る日もまたくるのだろうか。

エドワード・ヤンは『ヤンヤン 夏の想い出』(DVD)に続いてやっと2作目をみた。名高い『クーリンチェ少年殺人事件』はDVDが出ていない。もどかしい。権利関係のトラブルによるとのこと。
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20081030#p1ヤンヤン 夏の想い出)
http://www.cinemavera.com/essay.html?mode=detail&no=19(クーリンチェ少年殺人事件について)


2009年 映画DVD鑑賞 (1)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090515#p1
2009年 映画DVD鑑賞 (3)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090715#p1