東京永久観光

【2019 輪廻転生】

★恋恋風塵/侯孝賢


 侯孝賢 「冬冬の夏休み」「恋恋風塵」デジタルリマスターBOX [Blu-ray]


『冬冬の夏休み』に続いて『恋恋風塵』のブルーレイを鑑賞。これは去年買った侯孝賢の2作入りのボックス。レンタルとは違ってなんだか借家から持ち家に変わった気分。

『冬冬』で寒子役をしている女優(楊麗音 ヤン・リーイン)が、『風櫃の少年』にも出ていることに、あるとき気づいてあっと思ったが、彼女は『恋恋風塵』にも出ているのだった。中学を終えて台北に出てきたヒロインのフン(辛樹芬 シン・シューフェン)が勤めた裁縫の店の先輩役。

ちなみに、映画館の上にある作業場に招かれたフンが、みんなと食事をするシーンで、どんぶりご飯を立ったままかきこんでいるのが、楊麗音。このなかなかカルチャーショックな中華系の食事スタイルを、私が初めて目撃したのは、ひょっとして、この映画だったのだろうか?

いろいろチェックしてみるに、『恋恋風塵』を郷里福井の名画座で初めてみたのは1989年ごろで、その年私は中国を初めて旅行したので、そっちで先に目撃したはずだ。

ともあれ、『恋恋風塵』は以後何度も見たために、楊麗音の食べっぷりはもうすっかり慣れた、ということが言いたかった。

そして、日本人が麺類をズルズルすするのを目撃するショックにも、世界のみんなはそろそろ慣れてくれないものかと、思ったりもする。最近は「ヌーハラ」とか言うらしい。

http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1710/23/news078.html

それはさておき。『恋恋風塵』の物語は60年代末だが、製作は1987年なのでそこには1987年の台湾が映っているはずなのに、切り取られる台北の街の建物や看板は、まさに60年代の日本映画の風情。そこに集う若者たちもそのころの貧しく美しい映画の若者の生き写しにみえるのが、面白い。

映画について。『恋恋風塵』における作中の映画は、その台北の映画館で眺められるだけでなく、ワン(主人公男子)とフンが帰省した郷里の集落では、野外の広場にスクリーンを張って上映されている。1960年代の映画の鑑賞のされかた。

1960年代末には私も日本で物心ついていたわけで、そういえば、そこのろ、隣の集落の公民館で、たぶん青年団のお兄さんとかが映画を上映していたので、見に行った記憶がある。松原智恵子の青春恋愛映画だったのと、相手役のわりと有名なアイドル男優が不良でけんかして怪我とかしたのを、覚えている。

あれは何という映画だったのかと、以前、松原智恵子Wikipediaで当たってみたところ、松原智恵子は1960年代後半じつに多数の映画に出ていて、驚いたが、結局これだと思いあたる作品はなかった。

ともあれ、私にとって、1960年代後半の雰囲気というなら、たとえば、あの隣町の公民館や、音も映像もたぶん粗かったあの松原智恵子の映画の雰囲気が、代表しているだろう。そしてまさにその雰囲気が『恋恋風塵』には詰まっているように思われる。


◎こちらはDVD。恋恋風塵 [DVD]