東京永久観光

【2019 輪廻転生】

★泥の河/小栗康平(1981)

うちはAmazonPrimeに加えNETFLIXにもいつのまにか入っていて、昨夜は探しあぐねたあげく、『泥の河』(小栗康平)を観た。

白黒で昭和31年(1956年)の話だが、意外に新しく1981年の映画で、公開時に映画館でみた。ネトフリっぽくも80年代っぽくもまったくないが、忘れがたき傑作。

といっても1980年代も、べつにひたすら昔かな、今となっては。

80年代の日本映画といえば『家族ゲーム』『台風クラブ』『お葬式』などで、やっぱり新奇さに満ちていたと思う。今から考えると『泥の河』は独特の位置になる。そういえば『麻雀放浪記』も白黒だった。

なお、今ぱっと1つ1980年代のフェイバリットを言うなら、『十階のモスキート』か。しかしもはや誰も知らない。

1950〜1970年代の映画はいつまでも懐古的に鑑賞されるのに対し、1980年代の映画はわりと忘れられている気がして、その時代の空気で思い切り息をしていた者としては、寂しい。

ところで、加賀まりこは『麻雀放浪記』(1984)にも出ていた。『泥の河』と並んで強く印象に残った。ただ、彼女の映画を私はほかにはあまり思い出せない。

その『泥の河』では、加賀まりこのスケジュールがタイトで、彼女のシーンは船を撮影所に持ち込んで6時間で撮り終えたと、以下のサイトに書いてある。

http://asa10.eiga.com/2017/cinema/718.html

『泥の河』の女優では、妻役・母役の藤田弓子が始終すばらしく好演。しかしクレジットでは、出番が少しの加賀が二番目で、藤田は最後。この場合どちらが格上なんだろうか。

なお『泥の河』の主役は田村高廣(藤田の夫)。これも貧すれど鈍しない人物、そして戦争の生き残りであることを含めて無常観やさすらい気分にどうしても引きずられている中年の男として、好演していると思う。

とはいえ、『泥の河』の見どころは、なんといっても3人の子役だろう。加賀の子として船に住まう姉と弟の2人がとりわけ自然で果てしなく切ない。対岸の一膳飯屋を切り盛りする田村と藤田の男児のほうは、演技が少し硬いけれど、むしろ親近感をおぼえる。田村の濃い風貌に全然似ていないのも一興。

 

1980年代を若い私が生きていたころ、多くの人々が古い1960年代の映画についてまるで現在であるかのように語っていた。だから今私がこうして1980年代の映画について語るのも、かまわないかと思う。ただその年代の落差が大きすぎることを思い知る。長く生きた。黙って長く生きすぎたか。(How old am I ?)