東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2009年 (5)


★乱れる/成瀬巳喜男 監督(1964)
 乱れる [DVD]
女が階段を上る時成瀬巳喜男 監督(1960)
 女が階段を上る時 [DVD]

高峰秀子成瀬巳喜男のコンビでは『浮雲』(1955)にずっぽり引き込まれたが、この『乱れる』も高峰と加山雄三の細かい仕草にいちいち意味を探ろうとして目が離せない。特に最後、列車に乗った2人が大石田という東北の駅で降りたあたりからは、魔境というか異境というかそんな所に一緒に入ったような気分になる。そしてラスト。乱れた髪の顔がアップになってそのまま終幕。たしかDVDのジャケットにこの顔があった。同じく大石田駅の2人も載っていた。こちらは流浪のイメージそのもの。今はもうない風景だろうからJRに乗っても訪ねることはできない。映画をみて旅をするしかない。

しかし、『乱れる』は一般的な評価はさほど高くないようだ。メロドラマというかよろめきドラマというかそういう類になるのか。

それでもこの高峰と成瀬のコンビをもっと見たいと思い、『女が階段を上る時』を借りた。こちらは登場人物が多彩でストーリー展開もめまぐるしく、これまた独自に面白かった。高峰秀子が好ましいがゆえにとにかく懸命に見てしまうせいもあろう。

ところで、『乱れる』も『女が階段を上る時』も高峰の演じる女はともに、死んだ夫への思いがやけに強い。それはストーリーに起伏を生じさせて奏功していると思われる。その純潔という常識がこの時代はまだまったく揺らいでいなかったのか。あるいは成瀬監督がそうしたものを特に志向していたのか。

そういえば、高峰は『二十四の瞳』(木下恵介監督 1954年)も『張込み』(野村芳太郎監督 1958年)も見た。同じ成瀬監督の『稲妻』(1952)も見ている。いずれも最近だ。これだけ集中して見るというのは私の場合とても珍しい。そもそも主演女優でDVDを選ぶなどということがない。そんな気になるのは他には薬師丸ひろ子くらいか。

一方、成瀬映画はこれで3作。特徴が少し感じとれるようになった。先に述べたようにただのメロドラマと言われればその通りなのかもしれない。しかしそれは作り手としてことさらキバった自己主張を含ませないところから来ているのではないか。その結果、映画をみていてストーリーや風景のほかには余計なひっかかりがなにもなく、そのメロドラマ的泥沼にひたすら落ち込んでいく。この成瀬巳喜男溝口健二監督は「あの人のシャシンはうまいことはうまいが、いつもキンタマが有りませんね」と評したらしい。のだが、上に書いた意味ではキンタマなんか隠しておいたほうがいいとも言える。(だから、先の純潔志向も監督の価値観の反映というより映画展開上の都合でただそうなったとみたほうがいいのかも。潔癖といえばむしろそのほうが潔癖)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E7%80%AC%E5%B7%B3%E5%96%9C%E7%94%B7

◎『浮雲』の感想


アモーレス・ペロスアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(1999)
 アモーレス・ペロス [DVD]

★21グラム/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(2003)
 21グラム [DVD]

『バベル』が面白かったので同監督の2作を見た。無関係の複数の人々が1つのアクシデントによって瞬時に交錯、それを機にそれぞれの人生はそれぞれにその極点に達するべくして達し、あとはただ激烈に転回していく。こうした構成と趣向はみな同じと言えるが、とにかくいずれも面白い。特に、『バベル』で垣間見たメキシコの熱い混沌を再び求めたところが大きかったのだが、はたして『アモーレス・ペロス』ではそれが狂おしいほどに全開だった。『21グラム』は『アモーレス・ペロス』のハリウッド的変奏ということだが、こちらも甲乙つけがたくエキサイティング。それと、激しい動きのあるシーンの編集がこの監督は見事だと思う。


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twitterをやっても今のところなんの役にも立っていないが、こうしてブログもちょっとずつ書いた分だけ載せればいいと思えるようになったのは、吉か。(というわけでさらに続く↓)


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グラン・トリノクリント・イーストウッド監督(2008-9)
 グラン・トリノ [DVD]

チェンジリングクリント・イーストウッド監督(2008-9)
 チェンジリング [DVD]

グラン・トリノ』は、モン族というものが実在することを、アメリカのそれも白人中心の保守的な町に隣人として入り込んでいる様子として目にしたことの驚きがまた、非常に大きい。それと、誇りをもって生き抜きしかし老いていく者の死に方、というテーマについて少し考えた。

チェンジリング』は、チェンジリング(changeling)という英単語がじつは初めて知ったものであることに驚いた。

イーストウッドの近作では『ミスティック・リバー 』の面白さがダントツで、『チェンジリング』や『ミリオンダラー・ベイビー』はかすんでしまうし、『グラン・トリノ』もかなわない。『硫黄島からの手紙』の重さは『ミスティック・リバー』に並ぶがかなり違った内容の映画なので比較が難しい。これが私のランキング。

…しかしよく考えてみると、『ミスティック…』と『硫黄島…』だけは映画館で見たのだった。『グラン・トリノ』も映画館に行くべきだったか。

http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20070605#p1硫黄島からの手紙
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20040305#p1ミスティック・リバー


ゼロの焦点野村芳太郎 監督(1961)
 ゼロの焦点 [DVD]

ちょうど見たあとに広末主演でまた映画化されたことを知ったが、これは昔のやつ。久我美子が主演でモノクロ。昔の鉄道やバスが出てくるのはそれだけで面白い。2時間ドラマなどでは決まって断崖絶壁で事件の真相が明かされ真犯人が告白するものだが、その風習はこれが始まりだったのか、もしや。舞台となった能登半島は車で回ったことを思い出した。もうかなり昔…といってももちろんこの映画ほど昔であるわけはないのだが、それでもやっぱりそうとう昔のことになってしまった。原作もだいぶ昔に読んだはず。だが映画をみていてもぼんやりとしか思い出せなかった。その読書も能登半島のドライブも、当然ネットもパソコンもなかった昔であるから、今いくら検索しても出てこない。そんな時代の思い出は自力で思い出さなければならない。でも昔はそういうのを思い出と呼んでいた。


★点と線/テレビ朝日開局50周年記念番組(2007)
 ビートたけし×松本清張 点と線 [DVD]

これは映画ではなくテレビ番組のDVD。ビートたけし主演。原作があっさり短いのに比して異様に膨らんだ長いドラマになっている。しかし、この事件をめぐって警官たちや犯人たちにはたしかにこうした背景や人生があってもよいなあという膨らみ方だったから、飽きなかった。そしてそうした背景にはやっぱりあの戦争が絡んでくる。さらにドラマでは、ビートたけし演じる警官の娘だった内山理名と若い警官だった高橋克典が、時はめぐり池内淳子宇津井健と化して東京駅で再会するのだ。もちろん現代の東京駅に寝台列車「あさかぜ」はもう発着していない。15番(×13番)ホームもない。それどころか、池内順子と宇津井健そのものが私のよく知っている2人からするとずいぶんと老け込んだものだ。時代は流れる…と感慨にふけっているうちにもその時代はまたもやとどまらず流れ続ける。ただもうなんだか、日本の戦後と私たちの人生や思い出というものは、一直線に過去から未来へ進むというより、どこかをいつまでも円環しているような気になってくる。それくらいすべては短いようであまりに長いのだ。そういえば、今年は太宰治だけでなく松本清張も生誕100年ということで、このドラマはついこのあいだ再放送された。そのテレビ朝日も100年を迎える前には没してしまうのだろうか。それを私が知ることはたぶんない。


そして、私たちは愛に帰るファティ・アキン監督(2007、ドイツ・トルコ) 
 そして、私たちは愛に帰る [DVD]

冒頭、見慣れない風景と聞き慣れない言葉の会話がちらっと出たかとおもうと、いつしか画面はドイツのブレーメンに切り替わったらしい。まあやっぱり「ブレーメンの音楽隊」を思い起こす。しかしこのようにブレーメン自体はおとぎ話でなく実在の都市で、普通のドイツ人が普通に暮らしているわけだ。そんな当たり前のことが妙に興味をそそる。しかも、たしかドイツの北端にあったっけという知識くらいしかないから、グリム童話ブレーメンをイメージしていたのに比べ、リアルのブレーメンと言われてもなんのイメージも湧かず、そのためかえって映画による観光になおさら興味はそそられるのであった。

しかも、そこでは年寄りの男がいきなり娼婦を買ったりして、さて何の話が始まるのか、だれが主人公なのか、しばらくわからないのに、話はどんどん進むし、あまつさえ主要と思えた人物があっさり死んでしまったりもする。ようやく話の本筋が見えてくるころには、舞台はイスタンブールに移っている。そこでもまた重要な人物があっさり死んでしまう。

しかしそうこうしているうちに、自分が追っているのは、たしかにアマゾンの紹介にあるごとく、「ドイツとトルコ、2,000kmの距離を隔ててすれ違う3組の親子が、さまざまな喪失感や悲しみを乗り越え希望を見出し、心を通わせていく姿」だったのだと、深く納得できるだろう。


★ワン・デイ・イン・ヨーロッパ/ハネス・シュテーア監督(2005)
 ワン・デイ・イン・ヨーロッパ [DVD]

ある一日。ヨーロッパの4都市。それぞれを旅行中の外国人が、それぞれに物を盗まれるなどして、地元のたいていはどうにもやる気のない警察官と関わることになる。しかもそれはたまたまサッカーのヨーロッパチャンピオンズリーグの決勝が行われている日でもあった。そんなシチュエーションの4つの出来事をオムニバスにしている。4都市は、まずモスクワ。次いでイスタンブール(またしても!) さらにスペインのどこかと、最後はベルリン。これはどこの国の映画と言えばいいのやら。しかもスペインで難儀な思いをする実直でちょっと間の抜けた旅行者はハンガリー人だったりする。なお、ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』を思い出した。


ゴースト・ドッグジム・ジャームッシュ監督(1999)
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いかにもジャームッシュらしいかんじだった。ギャングたちが老人クラブになっていてそれでも残酷なのだが子どもからおもちゃを投げつけらるとビクついたりする。


ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン/ホウ・シャオシェン監督(2007)
 ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン [DVD]

こちらはいかにもホウシャオシェンか。『珈琲時光』のフランス版的。日本の人はもの静かだったがパリの人はものやかましい。また、ジュリエット・ビノシュの住まいはごちゃごちゃして狭いとは言っても、一青窈が住んでいたアパートに比べたらましであり、屋根裏とそこへの階段があったりピアノを動かしてみたりと、カメラワークもいくらか自在にやれたのではないか。それにしても、家の台所を自分がいない時に他人に使われるのはいやなものだろう。ただこの映画ではパリを中国人留学生のような気持ちで眺めていた気がする。それと、列車のトンネルのシーンではどうしても『恋々風塵』を思い出した。


★日本の夜と霧/大島渚 監督(1960) 

なにかと「破格」の映画で唖然とするが、けっきょく途中までしか見なかった。またいずれ。


(ここまで書いてきた間に新たに2本のDVDを見たが、きりがないのでまた次回)


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↑ 映画DVD鑑賞記録 2009年 (4) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090916p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2010年 (1) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100223/p1