東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2013年 (1)


流れる/成瀬巳喜男(1956年)
 流れる [DVD]
騒動が次から次へ、速度と緊張を変えずに連続するので、目が離せず退屈する隙もまったくない。台詞は簡にして要を得ている。

引き戸や柱で仕切られた日本家屋のたたずまい、奥行き。そこに配置される人物の向きやサイズ。和服の繚乱。箪笥や戸棚や調度品。窓から覗く景色。完璧。映画産業全盛期の総合力とはこういうものなのだろう。近年のテレビドラマ産業の総合力も同じこと。(この映画をテレビドラマ12回連続で楽しませてもらうのもいい)

山田五十鈴。気がつけば、演技に一寸の淀みも揺れもない。オリンピックなら間違いなく10.00。梨花と初めて対面した時にタバコをさっとくわえる細かい仕草も目を引いた。昭和のかなり昔にはどこの家でも雑誌から切り抜いた女優の写真なんかが壁に貼ってあったと記憶するが、山田五十鈴の面長の顔などはそのイメージの代表またはルーツだろうか。この人の映画は小津安二郎の『東京暮色』もみているが、甲乙つけがたい。

田中絹代。女中としてとにかくこまめにすばやく動く。洗濯しましょうと笑顔で言いながら、もう着物のそでをくくり始める。注射をいやがる子どもを小さな体で優しく押さえつける。状況をかしこく察知し自らの立場もわきまえているが、腰の低さや人を慮るところは生来の心根のようにもみえる。本人がこんな性格の人なのかとすら思うが、そこはやはり演出と演技の妙なのだろう。クレジットは山田五十鈴より田中絹代が先。

高峰秀子。不機嫌そう顔で終始する。他人には勝気で、自分には弱気で、母にはムキになり、しかし将来に対してはいくらか健気。原作(幸田文)をちらと読んでみたところ、器量の悪い女との設定だったので、ちょっと笑った。

栗島すみ子。貫禄。眉毛が芝居をしている。

杉村春子。大車輪の脇役。コロッケとコッペパンをおいしそうに食べる。ソースをこっそりもらう。火伏せのおまじない。三味線の弾き方を電話口で聞く。久しぶりに呼ばれた座敷で気持よく酔って帰り、「ジャジャンがジャン」と喜び踊る。吐いてもまた踊り、また吐く。哀しく可笑しい。この映画のカナメはじつはこの人かも。

中北千枝子。寝てばかりの居候。本当にだらしなくて見応えがある。

猫のポン子。夜に屋敷の塀の上を歩くカットもいいが、招かれざる客の宮口精二の膝におそるおそる前腕を置こうとして嫌がられ、どかされるときの細かい仕草がまた秀逸。
 

高峰秀子杉村春子、終盤の一騎打ち。名文句が忘れ難い。杉村「人を恋しいとおもって泣く涙、男を知らないあんたなんかにわかるもんか!」 高峰「男を知ってるってことがどうして自慢になるのよ」 杉村「大変なことをおっしゃいましたよ、このお嬢さんは。ええ? 女に男はいらないって、本当ですか?」

『流れる』は2度めのDVD鑑賞。成瀬映画では『浮雲』がマイ・ベストだったが今回この2つが並んだ。しかも「私は小津安二郎より成瀬巳喜男のほうが好きだ」と言いたくなっている。しかし次に小津映画をみるとまた「小津がやっぱり一番好きだ」と言いたくなるのだろう。

◎『浮雲』の感想 → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20070304/p1


幕末太陽傳川島雄三(1957年)
 幕末太陽傳 [DVD]

二階建ての遊郭の、幅広い階段や、中庭をぐるりと囲んだ廊下を、広く使いながら人の大きな動きを見せるショットもまた、個人的には印象に残った。

さて、主人公は宿代の支払いのために懸命になっている。その主人公が知り合った幕末の志士たちは日本の将来のために懸命になっている、そんなコントラストも見えてくる。それでいて、自らの命を惜しまぬ風の幕末の志士たちにはむしろ楽天性があるのに、洒落だけで日々を送っているような主人公には、かえって、肺病か何かを病んでいることもあり、じつはどこか暗いトーンが流れている。ラストが墓場シーンなのも意味深長に思えた。

古典落語を下敷きにしている点も評価されている。「居残り佐平次」「三枚起請」「品川心中」など。

西洋クラシック音楽のフレーズを現代のポップスが引用するようなものだろう。日本でも古典の物語や音楽が庶民レベルでちゃんと受け継がれているものは何かあるかなと考えるわけだが、落語だけはわりとそうかもしれない。

…とすると、テレビドラマ『タイガー&ドラゴン』を思い出すべきだ。


タイガー&ドラゴン(TBSドラマ 2005年)
 タイガー&ドラゴン 完全版 Blu-ray BOX

まさに古典落語を現代劇に蘇らせた傑作。ドラマの作り方も非常に先端的だった。幕末太陽傳に続いてDVDを借りたが、やっぱり面白かった。初回は「三枚起請」の換骨奪胎。「品川心中」ものちの回で取り上げられる。

なおWikipediaによれば、『幕末太陽傳』のラストは、当初の案では、主人公が墓場のセットが組まれているスタジオを突き抜け、さらにスタジオの扉を開けて現代(昭和32年)の街並みをどこまでも走り去っていく、というものだったという。この案がのちに『田園に死す』(寺山修司監督・1974年)に影響したとも書いてある。こうした「劇によって語られている次元」と「その劇を語っている次元」とが行き交う趣向というのは、創作の世界ではそれこそ古典的な技としてけっこう昔からあったのだろう。

その技の乱れ打ちともいえる『タイガー&ドラゴン』は、その点でも古典の粋を受け継いでいるのかもしれない。

◎『タイガー&ドラゴン』当時の感想 → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20050508/p1


007 死ぬのは奴らだ(1973年)
 死ぬのは奴らだ [Blu-ray]
007 黄金銃を持つ男(1974年)
 黄金銃を持つ男 [Blu-ray]
007 ロシアより愛をこめて(日本公開1964年)
 ロシアより愛をこめて [Blu-ray]
大昔に見た上2作が懐かしくなって借りてみた。「死ぬのは奴らだ」の主題歌はウィングス1973年のヒット曲でラジオでよくかかっていた。ついでシリーズ屈指の名作『ロシアより愛をこめて』も初めて視聴。この映画ってエキゾチズムをかきたてる企画ともいえるのではないか。上2作はカリブや香港そしてタイの海に行きたくなる。『ロシアより愛をこめて』は、イスタンブールからオリエント急行の旅が始まり、途中からユーゴスラビア(現在はクロアチア)の平原と海の風景を堪能でき、最後はベニス観光だ。


キイハンター(TBSドラマ 1968年〜)
 キイハンター BEST SELECTION BOX [DVD]
スパイものの流れといっそうの昔への懐かしさから借りた。第1回などを視聴。若き野際陽子の美貌。丹波哲郎千葉真一も若い。


鈴木先生テレビ東京ドラマ 2011年)
 鈴木先生 完全版 DVD-BOX
最後回は、サンデル先生ならぬ鈴木先生が、教室で、倫理をめぐって生徒みんなとディスカッション。テーマは「これからの避妊の話をしよう」


宗方姉妹/小津安二郎(1950年)
 宗方姉妹 [DVD]
田中絹代高峰秀子が姉妹役で共演。高峰秀子のズッコケ演技は子どもだましのようで、一方、田中絹代はこれまた紋切り型ともいうべき悲劇にみまわれている。従来の少女漫画のごときデフォルメを見せられている気がする。小津映画の魅力とは一体何なのだろう(私はじつはまだわからない。成瀬映画の魅力はさほど考えるまでもなくわかるのと好対照)


↑ 映画DVD鑑賞記録 2012年 (3) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20121208/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2013年 (2) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20131229/p1