東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2012年 (2)


その男、凶暴につき北野武(1989)
 その男、凶暴につき [DVD]

北野映画の原点はこの第1作にある。後はみなその変奏だ。町山智浩がそう話していたのを知り、久しぶりにみたが、まったくその通り。「ああ、たけしの映画だ」と全編これ没頭。

町山智浩の映画塾!「その男、凶暴につき」<予習編>(http://www.youtube.com/watch?v=vJ82-YpSIZA

その流れでいくつか北野映画をみた。


キッズ・リターン北野武(1996)
 キッズ・リターン [DVD]

動きのない紙芝居のような映像づくり。北野武の特徴だと改めておもう。校舎脇に停めた教師の乗用車が放火されるシーンで、放火自体のカットは省略し前後のカットだけをつなぐ手法なども、この監督らしい。ゆるいギャグももちろん北野武でないと許されない、というか不可解だろう。

高校の教室から落ちこぼれたヤング2人。底辺には底辺なりの希望も上昇もあったのに、結局は底辺なりにあっけなく足をすくわれ堕落していく。そのもの悲しさ。ちょうど先日『桐島、部活やめるってよ』をみたが、あのような逆転勝利にはけっして導かないのが北野武なのだろう。

2人がうだうだしている町の喫茶店が、いかにもあか抜けない。そこには別の大人しい男子がいて、店を手伝う娘と意外にも結びつく。その話がまたあか抜けない。夢のためより糧のために職を求め、晴れて社会の一員になるのだが、最初の秤を売り歩くセールスマンでも、次のタクシーの運転手でも、どちらも絵に描いたようにみすぼらしい扱いを受ける。主役の2人以上にもの悲しい。

キッズ・リターン』は、私が2度目の会社勤めを辞めたころ、あてどない気分の中でみたと記憶する。「マーちゃん 俺たちもう終わっちゃったのかな?」「バカヤロー まだ始まっちゃいねえよ」。ラストのこの会話を底辺からの希望として受けとめた。……しかし「もう終わり?」「まだ始まっていない」はその後も続いているようで、ひょっとして一生それをやっていくつもりかとも思われ、最高にもの悲しい。

『東京右半分』(都築響一)という本で、足立区の地理・風土について地元出身者が語っており、電車で都心に出るだけでも一苦労といった地域自体の劣等感覚が印象的だった。足立区といえばもちろんビートたけし。『キッズ・リターン』にもそんな土地のムードは漂う(実際は架空か)asin:4480878513


HANA-BI北野武(1998)
 HANA-BI [DVD]

心中映画ということになる。センチメンタルかもしれないが北野映画で最も好きだ。『ソナチネ』もたぶん同等に好きだが、長らくみていない。

大杉漣は私には好感度は高いのだがやっぱり上手ではないと思う。それとやっぱり久石譲の音楽はあまり好ましくない。北野映画の奇異な緊張感にぴったりとは思えず、心残りだ。音楽だけ完全に別個のトーンに作り直して上映したら、この映画の隠れた魅力がもっとたくさん見出されるのではないか。

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誰もが知っているビートたけしというおっさんが長い間ヘンなことを言ったり行ったりしてきた。それはもう日本社会の一部を成している。少なくとも私の精神史には80年代以降ずっと特別なインパクトを与えてきた。たしかに「たかが映画、たかが役者の演じた暴力や自殺」かもしれない。しかしビートたけしの存在は、いわばテレビや映画を介した現実なのだから、その映画で起こる出来事も現実のように受けとめることは不自然ではない。

日本に「たけし」がいるのは、日本に富士山やお台場があるのと同じなのだ。今回そう思った。だから、この男が演じたり作ったりする暴力シーンや脱力シーンがどれほど奇異であっても、そうした事実としてとにかく眺めるのがよかろう。

恋愛映画やSF映画が存在する程度には北野映画というものが存在する。下の一作もそう思ってみるしかない。


監督・ばんざい!北野武(2007)
 監督・ばんざい! <同時収録> 素晴らしき休日 [DVD]

たけし人形が面白い。現代美術を鑑賞しているようだった。挿入される習作的な映画はどれもよく出来ているとおもった。ホラー映画の能面などは実際怖かった。しかし江守徹と井出らっきょはつまらなかった。監督自らの自虐的・自堕落な面をあえて見せる意味や魅力を狙ったのだろうが、ただのグダグダであり、グダグダの面白さには至っていないとかんじた。『みんな〜やってるか!』のほうは、けっこう素直に笑った記憶がある。

(追記)忘れていた。『監督・ばんざい!』では、かつてのワールドカップにおけるジダンの頭突きをパロディとして取り入れている。いかにもビートたけしの所業だとおもい一人盛り上がった。あの出来事は歴史におけるただの間違った横道のひとつとして切り捨ててしまうには惜しいと私も感じるのだ。

《和をもって尊しとなせ だめなら頭突き》http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20060716

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今回の北野映画について羅列的まとめ。

・盛り上がった場面で、無言かつ動きもないポーズの時間が流れる。そんなカットがやけに多い。それが奏功している。それが北野映画

・引き延ばされる間の異様な緩さ。断ち切られる瞬間の異様な速さ。

・カメラの動きが端正であり、台詞や人の動きはほとんどない(過剰の反対)。ところが、そんな抑制された場面のなかに、何かが起こる。ドラマが展開する。もしくは画面が展開する。

・めちゃくちゃ暴力的な行為が目の前で連続するので、つっこみもできずただ唖然としてしまう。そんな場面を北野監督は一重に目指している。いやでもそう思わされる。

・黙って動きもなく、しかもそんなカットが通常より長ければ、鑑賞者はいやでもじっくり人物たちの思いにのりうつる。なにか意味があるかと考える。なにか意味を付してしまう。

北野武にかぎらず、そもそも映画の作り手はみな、「ドラマの展開」と「画面の展開」の分かち難きところにこそ、映画の醍醐味を見出すのだろうか。


EUREKA(ユリイカ)/青山真治(2000)
 EUREKA ユリイカ [DVD]

やはり素晴らしいというしかない。「負傷と再生の物語」といったところ。

こずえの冒頭の語りが「大津波が来る。いつかきっと みんないなくなる」だったことを再認識し驚いた。

阿蘇山の火口で向こう向きに男女が並ぶ映像は、もしや『ストレンジャー・ザン・パラダイス』?

アフェリエイトで稼ぎましたとかTOEICで800点とりましたとかリーブ21で毛が生えましたとか、そういうのも人生の有意義かもしれないが、映画ユリイカに圧倒されましたというのも、それに勝るとも劣らず有意義なので、やはりお薦めします。

以前 長い感想を書いた。それ以来の鑑賞。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20050601/p1


晩春/小津安二郎(1949)
 晩春 [DVD]

「この映画は完璧に出来ている」と思ってしまった。紀子の感情にしろ画面の作りにしろ、これまで「いくらなんでも極端」という思いが先に立っていたのだが、今回は気にならなかったのだ。「これはこれで原節子笠智衆もハマるべきところにぴったりハマっているのだ」と思えて、すべてが素晴らしく見えた。なお杉村春子はもとからぴったりハマっている。

小津に関する本を読んでいる最中だったせいもあろう。1つ1つのシーンを1つ1つ完成させるために監督をはじめスタッフ全員があらんかぎりのセンスとエネルギーを注いだ。そんな当たり前のことが偲ばれてならないのだった。

茶の湯・能・鎌倉と京都の寺社など日本文化の粋といったものを多く取り入れたのも特徴だろう。「端正」という賛辞を北野監督とともに小津監督にも捧げたい。(ちなみに『その男、凶暴につき』と『晩春』は同じ日に鑑賞した)

東京物語』を超え、小津の最高傑作かもという気すらしてきた。

本というのは『小津安二郎 新発見』(講談社プラスアルファ文庫) 。小事典的な一冊。佐藤忠男が全作の解説を書いている。

◎以前の『晩春』感想:http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100223/p1


早春/小津安二郎(1956)asin:B0009RQXKK

若き岸恵子が出ているので、他の小津作品と間違う心配がない。


ストレンジャー・ザン・パラダイス1984
 ストレンジャー・ザン・パラダイス [DVD]
ダウン・バイ・ロー(1986)
 ダウン・バイ・ロー [DVD]
ミステリー・トレイン(1989)
 ミステリー・トレイン [DVD]

ジム・ジャームッシュの初期作品を続けて鑑賞。80年代、多くの人と同じく私もこの監督に感じ入ったが、今みてもそれは変わらない。無条件に好きだった映画をみなおすというのは、本当に悦ばしいことだ。北野映画もまったく同様。

ストレンジャー・ザン・パラダイス。全部よい。エディーがエヴァをちらちら見る目線がよい。ダウン・バイ・ロージョン・ルーリートム・ウェイツロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ。…もうちょっと感想を書いたらよいのだが、こう役者の名を挙げただけで言い尽くせた気分になりすっかり満足してしまうのだ。

この3つのジャームッシュ映画には「お茶目」と「退廃」がちょうどよく混ざっている。『ダウン・バイ・ロー』だけは「退廃」がちょっと濃いめか。その後の『ゴースト・ドッグ』『ブロークン・フラワーズ』などをみると「お茶目」が基調になってきたなあと感じる。


鉄西区 第一部 工場/王兵(中国・2003)
工場萌えの映画。鉄道萌えがそこに加わり、最後は廃墟萌えになる。しかしこの映画はなんといっても「中国萌え」の極値だ。

ジャ・ジャンクーの映画『長江哀歌』をみたときは、中国を実にうまく切り取っていると感激したが、『鉄西区』は中国そのものを切り取りもせずただ流出させてしまった感が大きく、開いた口が塞がらない。

◎長江哀歌 http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20080119/p1

灰色とセピア色ばかりなのでカラー作品だということを忘れる。

まさに蟹工船太陽のない街だ。「労働者よ立ち上がれ! もはや共産革命しかない」と叫びたくなるのだが、いやいやそれが実現した国の末路がこれなのであった。

これは劇場鑑賞。新宿 K'scinemaにて。http://www.ks-cinema.com/schedule.html


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↑ 映画DVD鑑賞記録 2012年 (1) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20120819/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2012年 (3) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20121208/p1