東京永久観光

【2019 輪廻転生】

日本の格差? お手上げだね!(とは言ってない)


週刊東洋経済のピケティ特集。
http://store.toyokeizai.net/magazine/toyo/20150126/

いろいろ勉強になるが、「やっぱり!」と私が鬼の首をとったのは以下のくだり。

実は昨今、日本で所得シェアを伸ばしているのは上位0.1%などの超富裕層ではなく、上位5%の層だ。これは大企業の正社員クラスである。

どうだろう。アメリカ的な上位0.1%の大金持ちではなく、上位1%の小金持ちでもなく、上位5%というじつに微妙な層をズバリ指摘している。上位10%でもまたない。

もちろん、下位90%層は1990年代以降 所得がずっと下がっているという話や、アベノミクスの恩恵は株で儲けた0.01%〜1%の層だけに集中しているという話は、よく聞くし、同誌にも載っているけれど、「楽勝5%人生」という日本固有の特殊事情に、ちっとも驚かず怒りもしない、そんな世界でいちばん優しい日本人よ(私?)


ほかにピケティが指摘していることでは、19世紀から20世紀初頭、ヨーロッパの富は資産家に著しく集中していたが、同時代のアメリカではさほどではなかったという話も面白い。「ダウントン・アビー」などはその最後の輝きなのだろう。たしかにアメリカは西部開拓をようやく終えたばかりだし、そもそも伝統の貴族のお屋敷なんてのとは無縁だった。当時の日本はというと、ヨーロッパにやや近かったのだろうか。先日のドラマ「オリエント急行殺人事件」の剛力家などが思い出される。谷崎潤一郎細雪」も思い出される。


もちろんピケティは、現在のアメリカの上位0.01%層が株でボロ儲けしている(あるいは超高給を取っている)点も重視している。

ただし、この点については、「経済の主役に金融がおどりでた」という時代の大きな変遷そのものを改めて確信させられ、その興味こそがつきない。


なお、昨年のベストセラーだった水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機 』は、金融というヘンテコな経済空間がひねり出されたことを、資本主義の最後の断末魔として捉えている。しかしその延命措置も効果が消え資本主義は終りますと宣言する。

私としては この薄っぺらい水野本の衝撃と知見が決定的に大きかったので、「資本主義とは何ぞや」は、今「人工知能とは何ぞや」に並ぶほど面白いテーマだ。

名付けて「商品を脱した貨幣、貨幣を脱する金融、金融を脱するX」!


これらを総合しつつ、私としては、経済や景気とは、たしかに単純な反復があるものの、たとえば13世紀のイタリアはこうだった、18世紀のイギリスはこうだった、21世紀の日本はこうだという、時代と地域の特殊事情でがらりと様変わりする部分が相当大きいのではないか、という考えにも至っている。


21世紀の資本』(5840円)を「上位5%層は買って読みなさい」「残りの95%は図書館で借りなさい」と、ピケティが日本の講演で言ったとか言わなかったとか……


21世紀の資本
 21世紀の資本
★資本主義の終焉と歴史の危機
 資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)
細雪に関するエントリー
 http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20060128/p1


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その後、関連記事あり:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42212「TV番組に出たら、出演者がみんな「所得トップ1%に入る年収」だった」


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訳者の山形浩生氏は、日本の所得に関して、以下のように書いている。
http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20150213

《上位1%ではなく、上位10%の取り分をみると、ここ数十年で激増しているのがわかる。その比率はアメリカに肉薄している。
 確かに、日本の所得格差はアメリカとはちがう。でも上位1%だけを見ることが、実はとってもミスリーディングだということもわかるだろう。日本は、確かにアメリカみたいな超大金持ちはいない(いても増えていない)。でも、中金持ちくらいがずーんと取り分を増やしている。
 さて、これはいいことだろうか、悪いことだろうか? どっちとも言えるよね。そして日本の格差は上がっているのか、下がっているのか? それはあなたの問題にしている「格差」が何かによってまったく変わってくる。超大金持ちがウハウハしてなければ、格差問題はないと言えるんだろうか? 上位10%というと、一部上場企業の勤め人とか結構入ってくる感じだ。そんな大金持ちという感じでない人も多い。そこが富むのは、人によっては中流層が豊かになってるということだと解釈するかもしれない。人によってはもちろん、上位10%なんて金持ちだし、これは明らかに格差上昇のしるし、と言うだろう。》

上位1%か10%か、はたまた0.1%か。どこに着目するのか、それをどう評価するのかで、格差の議論は多様になる。

 
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山形浩生飯田泰之の対談。

http://synodos.jp/economy/13286/2

《飯田 ピケティはアメリカ型とヨーロッパ型の格差があると言っていますが、ぼくはもう一つ日本型の格差もあるように思っています。

日本では上位10%の金持ちが全資産に占めるシェアの5割を切っています。これは世界でベルギーと日本しかありません。日本も資産に関しては、世界でトップ争いできるほどの平等な国でもある。

ですが、『21世紀の資本』が注目されるような、非常に強い格差感も日本社会にある。日本の場合、持ち家層・中くらいの資産を持っている人と、全然持っていない人の格差とが、意識として強いのではないでしょうか。これは、アメリカの1%対99%とか、ヨーロッパの資産家vs一般人とは違っているのではないでしょうか。

たとえば、この本への有効な指摘の一つとして、「資産の占める割合の大きさを問題にしているけれど、その資産の多くは金持ちではない一般の人の住宅じゃないか」とはいうものがありますが、この住宅ストックこそが日本の格差感の原因になっていると思うんです》