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【2019 輪廻転生】

地球生命誕生はファンタジーではすまない

★生命はなぜ生まれたか―地球生物の起源の謎に迫る/高井研

 生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る (幻冬舎新書)


生命は原始地球の深海熱水活動から生まれた。同書はそれを強く主張する。カバーにはこう記している。《40億年前の原始地球。過酷な環境のなか、深海には、地殻を突き破ったマントルと海水が化学反応を起こし、400度の熱水が噴き出すエネルギーの坩堝があった。その「深海熱水孔」で生まれた地球最初の“生き続けることのできる”生命が、「メタン菌」である。光合成もできない暗黒の世界で、メタン菌はいかにして生態系を築き、現在の我々に続く進化の「共通祖先」となりえたのか》

生命の起源をめぐっては、「原始地球と同じ大気に電気エネルギーを与えたらアミノ酸が生成した」とか「地球外から隕石でバクテリアが飛来した」とか昔から言われてきた。最近は「現在の生物に不可欠であるDNAとたんぱく質が両方同時に生じることは難しく、それより先にRNAのみによる生命現象があったはず」という話もよく言われる。そこに深海熱水活動というちょっとややこしくてイメージもしにくい説明が登場し、しかもそれはどうやら最有力らしい――。

だいたいそのくらいを知っていた。ところが、そうした生命起源をめぐる科学者たちの探究や学説の攻防というものは、とどまるところを知らず激化していたようだ。それがこの本でわかった。

生命誕生の謎を解くには何を明らかにせねばならないか。基本は2つ。当時の地球環境はどうだったのか。そこで生命が持続するにはいかなる仕組みがありうるか。これまた途方もない問いだが、科学はいつのまにかそこに肉薄している。そのことにそもそも驚かされる。

しかし、探究が進めば進むほど、生命起源の説明はむしろ難しくなると思う。地球環境や生命の仕組みをめぐって解明されてくる諸々の事実は、そのまま、矛盾なくクリアすべき条件としても課せられるのだから。生命の誕生はもはやファンタジーの領域ではなくなる。

そんななか、著者は自ら信じる学説をいかにして打ち立てているのか。そして、競合する学説をいかにして打ち破ろうとしているのか。徹底したレクチャーとともに、高井研という若い科学者の強烈な熱気が、この一冊には詰まっている。

文章のポップさがまた間違いなく楽しい。エネルギーをATPに換える手順を「換金」に喩えたりもする。生物がエネルギーをとりこむ方法は「発酵」「呼吸」「光合成」の3つだけであり、発酵は「物々交換」だが、呼吸と光合成は「金融業のノウハウが入る」という。さらにTCA回路は「ロンダリング」で、電子伝達系は「資産運用部」……。結局よくわからないのだが、ともあれ、地球環境と生命持続のシナリオにはエネルギー代謝こそ最大の眼目であるらしいことが、うかがい知れる。

ところで、現在の生物はすべてDNAをもっているわけだが、「べつにそうでない生命があったっていいのでは?」と私たちは素朴に思う。科学者も原則としてはそうした可能性を含めたところに立っているようだ。原始地球においてもDNA型につながる生命が1回だけ誕生したというのではまったくなく、様々なかたちの生命が次々に生まれ消えていったはずと、少なくとも著者は考えている。

ただしもちろん、上に述べたとおり、いずれかの生命はただ誕生すればよいのではなく持続しなければならなかった。実際それは今日まで持続してきたのだから当然だ。生命起源の説明ではそこもまた不可欠の条件になることを改めて実感する。

それと関連するが、これまでになされた生命の定義が同書では複数示されている。いろんな発想がここから出てきそうで面白い。

(以上、ざっと読んだ感想)


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お薦め書評(1)。ポップな文体の実例もたくさん引用している。
http://booklog.kinokuniya.co.jp/staff/archives/2011/12/post_28.html


お薦め書評(2)
http://www.wound-treatment.jp/next/dokusyo/233.htm
なお、ここには、著者の「深海熱水活動」説は従来のものとは一線を画していると書いてある。