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【2019 輪廻転生】

生物の中の悪魔/ポール・デイヴィス(続々)

そうこうしているうちに…  から続く

 

死んだら終わりで、神もいないみたいだけど、本当にそれでいいのか? 宇宙よ!――

今年の夏は『生物の中の悪魔』(ポール・デイヴィス)をこの問いの変奏とみなして読み、そして、同書の核心は「マクロ世界」そして「情報」にあると思ったのだった。

https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2021/09/27/000000

その続きを書こう。

 

「マクロ世界」とは、おそらく要するに「創発」ということ。1990年代に複雑系の科学というのが流行ったが、その核心がまさに「創発」だったと思う。今さらではあるが、この世界の法則自体に流行り廃れはないだろう。

マクロ世界の法則=創発とはどういうものか。たとえば―― 

隕石が地球に落ちてくる。この現象は原子や電子といったミクロ世界の物理法則で説明できる。ではソユーズが地球から外に飛び出していく現象はどうか。ソユーズを構成する原子や電子の動きの集積だけでそれを説明するのは難しい。(追記:原子や電子と隕石では記述する物理の枠組みが異なり、隕石の運動がミクロ世界とは言えないようだが、それはさておく)

そうしたミクロの説明ではなく、「宇宙ステーションに行きたいと人間が望んだから」というマクロ世界の説明が、この現象を最もシンプルに記述できる。

そしてポール・デイヴィスは、生命という現象はまさに圧倒的に複雑であり、ミクロの物理法則を破ってしまう動きに満ちていることを示す。この現象を説明するには、遺伝子〜タンパク質〜細胞〜器官〜身体などと重なっていく層それぞれのマクロ世界における独自の法則を見出すしかないと断言する。

 

(言いたいことが多すぎて全部言うにはどの順番がいいのか迷う。まるでセールスマンの巡回問題。これにはヒューリスティック=出たとこ勝負の対応がいい。つまり直感したらとにかく1つでも行って=書いてしまう。ツイッターはそれに向いている。実際に1つどこかに行く=実際に1つ文が確定する)

 

さて。

「生命は物理学で説明できるか?」はシュレディンガーが立てた問いだという。それに対し「宇宙に生命を宿す法則」は「存在する」「存在しない」の両方の考えが示されてきた。ポール・デイヴィスは「既知の物理法則には存在しないが、未知の物理法則には存在するはず」という立場。

そしてこの「未知の物理法則」が、つまり「マクロ世界」(私が言い換えた)の法則であり、しかも「情報」に関する法則であると、著者は言っているのだ。

 

じゃあ「未知の物理法則」=「マクロ世界の法則」である「情報の法則」とはいったい何? ということになる。それを同書は全体を通して提唱し探究する。

そもそも生命という現象は、物理や化学の観点に増して、情報という観点で分析してこそ驚くべき特異性をあらわにする。ポイントは、ゲノムの情報が分子や細胞の生命活動を生み出すとき、その情報がデータでありプログラムでもある点。遺伝子がハードウェアでありハードウェアでもある点。

「ソフトウェアとハードウェアの合作」という観点は、著者の前著『生命の起源』のほうが詳しいかもしれない。

https://www.amazon.co.jp/dp/4750340162

言い換えれば、生物における情報は単に獲得されるものではなく「処理」されるものということになる。

《生物は単に情報が詰まったバッグではなく、コンピュータである》

 

さてさて。

『生命の起源』と『生物の中の悪魔』を、私は「人類の出現は宇宙の必然か」という問いとして読んだ。著者は「生命は既知の物理法則で説明できる」という立場には立たないため、その点では「必然ではない」という立場だ。

しかし、だからといって「生命は物理法則とはまったく無縁に、たまたまできあがったに過ぎない」という立場でもない。つまり「偶然ではない」という立場も鮮明にしている。「マクロ世界」や「情報」を軸にした「未知の物理法則」が生命の誕生や活動を支配している可能性を確信しているからだ。

では「未知の物理法則」とは実際にはどんなものだろう。想像しかできないわけだが、1つは生物の原理に「進化」の理論が浮上したこと、もう1つは旧来の物理学から絶望的に隔絶した「量子力学」が発見されたこと。これらに匹敵するだろう。ポール・デイヴィスもこの2つには当然何度も言及している。

 

「マクロの法則」とは「特徴量」でもある  に続く