東京永久観光

【2019 輪廻転生】

きみはスタートの合図を聞き逃したね

映画『パピヨン』をDVDで見た。久々。

この映画の面白さは、大変な出来事がまず起こるが、他にも大変な出来事がどんどん連続するので、最初の大変な出来事が「何だったっけ?」となってしまいそうなところにあると思う。(たとえば『大脱走』などは1つの出来事が全編を覆っている)

私はどうも、こうした焦点が1つにならない冗長さを映画や小説で感じたとき、「面白い」と感じるようだ。『ワイルドバンチ』もそうだった。『続・夕陽のガンマン』もそうだった。『百年の孤独』もそうだろう。

長い歳月の経過を否応なく感じさせるところに核心がある。すなわち人生そのもののごとく大きな時の流れを感じさせるところ。映画を見ている長さや本を読んでいる長さがそこに重なってきて、また妙な味わいとなる。

パピヨンでは、最終的にはスティーブ・マックイーンは髪が真っ白になりダスティン・ホフマンは禿げ、どちらもよれよれになる。わかりやすすぎるが、それはまさに人生の時の流れだ。

では、その時の流れは何をもたらしたのか。

マックイーンは夢をみる。どうやら死後の審判を受けている。そして、お前が犯した最大の罪は「人生を浪費したことだ」と告げられる。はっと我に返るのはマックイーンだけではない。

しかしそこでつくづく思った―― たしかに人生を浪費したくはない。しかし、人生は結局のところ「浪費さぜるをえない」。それこそが真実なのではないか。

さらに、ここがまたふしぎなところだが、「人生は浪費さぜるをえない」と本当に気づくのは、人生をかなり長く生きて実際に浪費したあとにしかできない。そして、人生を長く生きた甲斐が少しでもあるとしたら、そうした哀しい真実に気づけることくらいだろう。

人生の浪費というテーマなら、ぴったりの歌があった。ピンク・フロイドの「Time」(asin:B00008CHEX

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1820744 

ここで歌詞と訳詞が読める。コメントがまた秀逸。「Time」の深刻で真面目な歌詞は深刻で真面目であるがゆえの可笑しさもあり、ニコ動はそれを半ばジョークとしてニートの悲哀などに結びつけるのだが、それによって結局のところ、この歌がいっそう深遠なものに聞こえてくる。

ダイアナ妃の息子が結婚か〜 ダイアナ自身が結婚したのはいつだっけ〜 みたいな話をする。あるいは私が子どものころ、親戚の人たちがお盆などに集まって戦時中や終戦直後の話や死んだ身内の話を何度も繰り返す。しみじみと楽しそうに。そのようにして私たちは人生の長さの哀しい奇妙さに感じ入る。