最近は気分転換に加え懐古趣味もDVDを選ぶ動機になっている。
★事件/野村芳太郎(1978)
若き松坂慶子と大竹しのぶが薄幸な姉妹を演じきる。「これぞ女優」といった演技が全開で素晴らしい。松坂慶子のヒモでやくざの渡瀬恒彦もあまりのはまり役で素晴らしい。証人の森繁久彌と北林谷江もただの田舎のおっさんとおばさんとして確実にツボを突いたふるまいをワンポイントで見せ素晴らしい(他の役者ではなかなか出来ないのではないか)。永島敏行の下手な演技がまた妙な存在感を醸し出す。人を殺してしまった若者が法廷でそれを問いただされるようなことになれば、誰でもあのように素人くさくかつ深刻そうな「演技」をいくぶん強要されることになるのではないか。そういう点では唯一無二の役者かもしれない。あと丹波哲郎(弁護人)、芦田伸介(検察官)、佐分利信(裁判長)と役どころもぴったりの3人組に「これぞ法廷もの」の雰囲気はいや増す。
全体としても、事件をめぐる重大事項があとからじわじわ明らかになっていく仕掛けによって、非常に面白くみることができる。
かつて公開から少し後に名画座でみたと思う。当時の日記に一言くらい書いているかもしれないが、インターネットのブログと違うのでアクセスは実質不可能だ。それにしても、大竹しのぶや松坂慶子が若くてびっくりというのは、その70年代の終わりがもはや大昔になったことを意味する。まあ実際 大昔だ。当時は若者がまだずいぶん不自由だったのかなということも、事件の背景から感じさせられる。
原作も読んだ(大岡昇平)。裁判の進行に寄り添ってじつに緻密な記述が続くところは、映画を上回っていた。ただ実は、原作を読んだ理由は、映画をみていて加害者の永島敏行が心の中ではまた違ったことを思っているのではないかという疑問が浮かび、映画を見終わってもすっきりしなかったためなのだが、しかしそれは小説でも特に明かされるわけではなかった。それより、検察官・弁護人・裁判官はいかなることをいかなる手順で行うのかといった基本の勉強に、この小説は役に立つ。最後の判決を前に「殺人か無罪か傷害致死か」で意見の分かれる判事3人が率直に議論する様子も書き込まれており、それも興味深いものだった。なお原作の年代設定は1961年といっそう古い。asin:410106508X
★Love Letter/岩井俊二(1995)
当時 少し遠くの町の映画館まで見に行った。冒頭シーンでタイトルの「Love Letter」をはじめキャスト名も英文で表記されているのが、とても新鮮だった覚えがある。(95年はまだそんなに「素朴な時代」だったのか)
しかしそれ以外には記憶がないのだ。学校の図書館でだれも借りていない本のカードに名前を勝手に書いていく、といったことがストーリー展開のポイントになっていた、ということは思い出すのだが、その仕掛けが何だったのか、どうも漠としている。
そんなわけで15年ぶりにDVD鑑賞。
……なるほど、 こういう話だったか。感動した。しかしあのオチすら私の記憶から抜け落ちていたことを知る。いくらなんでもそれはおかしい。1995年はそれほど大昔ではないのに。……思案の結果、驚くべき新事実が明るみに出た。たぶん私はこの映画を半分眠りながら見ていたのだ! (最近はそうでもないが、昔は映画館でよく眠った。映画と夢が体験として似ているのは比喩ではない)
これは公開時にみた。私の中ではずっと80年代を代表する傑作。が、以来みていないので、それを確認したくてDVDを借りた。
さてその結果―。小林よしのりの原案という、まさに漫画的で偏執的な人物や展開が炸裂し、楽しんでみていた記憶がよみがえった。しかし、後半はどうもドタバタが続くばかりに感じられ、そこは当時より評価は下がった。しかし特に工藤夕貴、有薗芳記(第三エロチカという劇団の役者)の2人の壊れっぷりは、今も大いにみる価値がある。
逆噴射家族というタイトルは、1982年に日航機が羽田沖に落ちた事故に由来する。あの事故は機長がいきなり操縦桿を前に倒すという「逆噴射」が原因だった。「機長、何するんですか」の台詞も巷の話題になった。
このSFは長く愛されてきた。やはりまずはそれを思う。筒井康隆の同名原作小説(1967)。NHKのドラマ『タイム・トラベラー』(1972)。実写映画『時をかける少女』(1983 大林宣彦監督、原田知世主演)。アニメ映画『時をかける少女』(2006 細田守監督)。他いろいろ。そして本作。仲里依紗、大活躍。ユーミンの「時をかける少女」も いきものがかりの歌声でよみがえる。
芳山和子が理科実験室でタイムトラベルを体験したその時へ、和子の娘あかりがタイムトラベルを試みる。1972年とされているのでNHKドラマと同じだが、間違って行った1974年が主な舞台となる。当時の大学生の下宿部屋が出てきたり、よしだたくろう「春だったね」や かぐや姫の「神田川」が流れたりする。
★約束/斎藤耕一(1972)
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冬の海岸をひた走る国鉄列車。やんちゃでよく喋る若い男と年上のやけに落ち着いた女がたまたま席で向かい合う。実はともに「わけあり」の移動中。ところが思いがけず2人は心を通わせ、その短い2日間は互いの人生を塗り替える旅へと転じる。そして交わされた約束。しかしそれは、痛切な再度の旅に行き着く定めだった。主演の萩原健一と岸恵子の強い個性が、激しさと静かさのドラマにぴたりとはまる。また、北陸の冬はほんとうに寂しく暗く、悲しみをいっそうかきたてる。「珠玉の名作」と言いたい。
ロケ地は私の郷里 福井県の敦賀市。1972年とはこのような風景でもあったのだ。
この映画は一度みている。おそらくレンタルビデオ。「内容はほとんど忘れたが、感動した記憶だけは鮮明」という映画は、もう一度しかも新鮮に楽しめることが保証されている。最初にみた頃の自分すら再生されるようで、得難いプロジェクトとなる。ちなみにDVDは発売されていないようで今回もビデオ。
★人生に乾杯!/ガーボル・ロホニ(2007)ハンガリー
1950年代 社会主義の時代から一気に現代へ。これもある意味タイムトラベル。麗しのカップルも何十年もたてば81歳と75歳の老夫婦だ。その2人が年金暮らしに困窮し銀行強盗を始める。人生の総決算? と思いきや…… ともあれ、そもそも長く生きるとは、それすなわちSFを地で行くことなのかもしれない。
★芙蓉鎮/謝晋(1987日本公開)中国
文化大革命はSFみたいだ。しかし不憫さをおぼえるのは、やっぱりそれが史実だとおもうからだろうか。これも2度目の鑑賞。
★ダイヤルMを廻せ!/アルフレッド・ヒッチコック(1954)
これは初めて見た。これほど面白い映画をよくまあ知らずにいたものだ。ヒッチコックはけっこう見たがまだまだあるのだろう。
★続・荒野の用心棒/セルジオ・コルブッチ(1966)
「続」とはまやかしで、セルジオ・レオーネもクリント・イーストウッドもまったく関係ないのだった。またみたいと思っていたのは『続・夕陽のガンマン』のほうだった。次はそれを借りよう。
★ランド・オブ・プレンティ/ヴィム・ヴェンダース(2004)
「これは教科書の歴史ではなく生きている歴史なのだ」という意識で世の中の出来事を眺めることができるようになったのは、私は、ぼうっと生きてきたせいか、相当年をとってからだった。しかしさすがに「911」は私にとっての歴史だ。同じく、映画史というのもふつうは書物に記されているのだろうけれど、たとえばヴェンダースなどは私のなかで進行している歴史上の人物でもある。そのヴェンダースが911を見つめた一作。かつての素朴なロードムービーの面影も濃い。
以下はウィキペディアによるあらすじ。
「テルアビブから叔父を探しにロサンゼルスへやってきたラナは、ホームレスに慈善をおこなう団体であるキリスト教教会に身を寄せながら、叔父である男を探しまわる。一方、その叔父であるポールはテロリストからアメリカ合衆国を守るために監視するという義務を自らに課して一人で町中を監視し続ける奇妙な男であった。そして、その二人はアラブ系のホームレスが殺害された場所で再会することとなる」
★ときめきに死す/森田芳光(1984)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100928/p1
★アメリカン・グラフィティ/ジョージ・ルーカス(1973)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100731/p1
★チャイナタウン/ロマン・ポランスキー(1974)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100804/p1
★現金に体を張れ/スタンリー・キューブリック(1956)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100728/p1
★パルプ・フィクション/クエンティン・タランティーノ(1994)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100902/p1
★ゴールデンスランバー/中村義洋(2010)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100902/p1
★ナイル殺人事件/ジョン・ギラーミン(1978)
http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100729/p1
↑ 映画DVD鑑賞記録 2010年(3)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100724/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2010年(5)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20101229/p1