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【2019 輪廻転生】

量子の話と小説の話

量子が実在でなく情報にすぎないのは本当かもしれない。しかしそれは、人の人生が人の想像に勝らない、というような話だろう。電子の存在も君の手の存在もあやふやであるようには、君の人生も君の想像もあやふやだ。しかし見方を換えれば、君の人生も君の想像もある意味では(ともに同じように)確実に実在している!

そんなことを、今さっき『過去を売る男』という小説を読んでいたら、どうしても主張したくなった。

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(10月12日)

古い書斎の引き出しをあちこち開けてみるような小説だが、ミルグラムのスモールワールドの話が出てきた! さてその男は、故国を捨てて消息を絶った母親に、本当に6人を介して出会えるのか? ーーそれが捏造された過去の捏造された家族の消息であるにもかかわらず。

 

(11月2日)

短いエピソードが気まぐれに切り替わるなか、わずかに進んでいた物語は、終盤ついにカタストロフを迎えた。それは愛国者と革命者の戦いの傷跡なのだろうか。このような日本の小説もあったら読みたい。しかしそんな近現代を私たちは通り抜けたのかどうか、そもそも?

 

それにしてもなぜ彼らは過去の作り替えを願うか。この国は過去にひどい内戦を経験し、人々は永久に癒せない深い傷を被っている。そこから回復するとしたら、このような試みしかありえなかったのだろう。捏造された過去とその追想なんてきわめて奇怪だが、彼らが実際に追想しなければならない本当の半生はこれ以上に奇怪なものなのだ。