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【2019 輪廻転生】

★優雅で感傷的な日本野球/高橋源一郎

 阪神が日本一になったので、『優雅で感傷的な日本野球』(高橋源一郎)を久しぶりに読むことにした。初出は『文藝』。1985年11月号から連載が始まったようだ。

全部すーっと読んでしまった。面白いとしか言いようがない。まったく難解ではないのだった。ただただ奇妙なだけなのだった。小説の内容および私の感想を流行りの一言で形容するなら「誤読する力」か。80年代の日本文学が偉大だったのだとしたら、この小説こそ最も偉大だろう。

 

この小説のどこがいいのか、まったくうまく言えないが、ひとつ確実なのは、奇天烈でそもそもこれって何なのか首をひねるばかりの文章が冒頭から切れ目なく続いたあと、それを静かに聞いていたらしいリッチーが「きみの言う通り、野球のことが書かれているようだ。でも、注意しなければ見過ごしてしまうような一節だね」とうなずく瞬間が、なんとも言えずいいこと。

もちろん野球のことなど具体的には何ひとつ書かれていないにもかかわらず。話し手であるぼくも、すぐこう応じている。「そうなんだ。最初はぼくにもわからなかった。でも、勘が働いたんだよ。こいつは妙だな、って。ここにはなにか隠されてるって感じがした」

こうした至福といっていい瞬間は、読み進むとその後なんども訪れる。