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【2019 輪廻転生】

★15時17分、パリ行き/クリント・イーストウッド監督

  15時17分、パリ行き ブルーレイ&DVDセット(Blu?ray Disc)


DVDで視聴。

クリント・イーストウッド監督が、もうすぐ生涯も終えようとする今、いちばん確かな手応えを感じるものは、戦場なのだろう、そして信仰なのだろう、むしろそれしかないのだ。そう思った。

そして、イーストウッド監督が好ましく感じないものが、たとえば統計、分析、脳の薬、そして「シングルマザーの子は注意欠陥障害になりやすい」といった言説なのだろう、とも思った。

それでも、ヨーロッパをだらーっと観光しベネチアで決まりのように遊覧船に乗りアムステルダムのクラブで踊り、そして自撮り写真をインスタグラムにアップしつづける、そんな現在の若者を、ぴしゃりと拒絶する年寄りではないことも、大いに思わせる。自分の3分の1に満たない年齢の若者を。

それにしても、その若者3人の主人公は、俳優ではなく、なんと本人が演じているのだと後から知って、びっくりした。私の知らない注目の若手俳優だろう、いかにもそうだと、ずっと思って映画をみていた。反対に「オランド大統領はそっくりさんなのか?」と妙なことを思ったり。

日本の私は、アメリカの人とほとんどつきあいがないにもかかわらず、アメリカの人の顔や言動ならアメリカの映画で繰り返しよく眺める、という イビツな事情がそこにあるのだと、またもや考えさせられた。つまり、アメリカの人は全員 アメリカ映画の俳優であるかのように認知されるのだ、私には!

そして、そこらへんにいる若者の、実にそこらへんの身近に、国の軍隊さらには州の軍隊までが存在し、「パリって面白くないらしいよ。でも行く?」といったノリで、アフガニスタンにまで戦争に行ったりするらしいのが、アメリカの人々であり、それは日本の私たちとは相当異なるのだと、改めて思う。

ではそうしたアメリカの状況に、たとえばこのたびトランプを信任した人と拒否した人は、それぞれ賛成・反対どっちなんだろうと、考える。クリント・イーストウッドという人に、それぞれ賛成・反対どっちなんだろうと、考える。

ついでに、安倍自民党政権に絶対賛成の人と絶対反対の人は、それぞれクリント・イーストウッドの映画には、賛成・反対どっちなんだろうと、考える。

アメリカの政治も社会も、日本の政治も社会も、近ごろ分断がますます著しいように見える。いや「分断は必然だし、分断したって政治や社会がまったく機能しないわけでもない」なら、それでもいいのかもしれないが、あまりにも分断する政治や社会は、見ていて辛い、やっていても辛い。

その分断にどうにか橋をかけるような役割を、クリント・イーストウッドの映画は果たすのではないか。私は戦争も戦闘も硫黄島の玉砕も好きではないけれど、彼の映画が嫌いではまったくない。

◎参考:『硫黄島からの手紙』をみたときの感想
 http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20070605/p1