東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2011年 (5)


もう頬づえはつかない/東陽一(1979年) 
 もう頬づえはつかない [DVD]

女子大生を演じるほど桃井かおりは若くないという文句もあったようだが、あまり気にならない。この蓮っ葉でもアバズレでもない真面目な役がとても似合っている。それでいて桃井かおりは常に桃井かおりだ。デビューしたばかりの奥田瑛二は、今とはぜんぜん違い、ひ弱で鈍感そうな役にぴったりなのがおもしろい。森本レオは、今はダチョウ倶楽部にモノマネされる人の良いイメージだが、この桃井に惚れられる左翼系ルポライターの役はかなりカッコよい。伊丹十三もおかしな役で出てくる。桃井の住むアパートの大家で、髪結いの亭主。物干し場でタオルをどう干せば洗濯ばさみが少なくてすむかを桃井に講釈するシーンが、忘れがたい。

それにしても、当時の大学生が住んでいたアパートの質素さに、時の流れを感じる。狭い流し場。廊下にある共同のピンク電話。森本レオの部屋はもっとボロくて引き戸だった。

たぶん公開時にみてそれ以来。


疑惑/野村芳太郎(1982年) 
 疑惑 [DVD]

桃井かおりを堪能するなら「むしろこの映画だ」というので、これも久しぶりにみた。そのとおり桃井かおりらしさが炸裂。正反対のキャラクターの弁護士を演じる岩下志麻との対比もみどころになる。法廷でストーリーが展開するのは、同じ監督の『事件』と同じだが、そのへんは『事件』のほうがさらにおもしろい。

◎映画『事件』感想 → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20101123/p1


Shall We ダンス?周防正行(1996年)

これはDVDではなくNHK-BSでみた。かつて文句なく楽しんだ映画だったのに、今回は急にご都合主義の映画に思えてきた。


うなぎ/今村昇平(1997年) 
 うなぎ [DVD]

そこで、役所広司は、こっちはもっと地味だけれど、もっと真実味があったんじゃないか、という記憶をたどって借りてみた。全体として期待したほどではなかったけれど、佐原という水辺の街の風景と、古びた理髪店のたたずまいがとてもよかった。


復讐するは我にあり/今村昇平(1979年) 
 復讐するは我にあり デジタルリマスター版 [DVD]

そこでまた、今村昇平なら『うなぎ』よりこっちだというので借りてみたのだが、たしかに「うなぎ」よりはるかに面白かった(これはまだみていなかった)。

緒方拳演じる殺人犯は、思いつきのはったりだけで人を次々に騙そうとするので、あきれてしまうが、騙されるほうがまたコロリと騙されるから、もはや笑えるほど面白く、ひきずりこまれていく。実話をもとにしているのだが、じつに奇妙な殺人犯がいたものだ。

今村昇平もこの男を自分にない才能をもつ人物として評価している。DVD付録のインタビューでそう語っている。しかしながら、役者たちとの関係が煩わしいから映画なんてこりごりだと思っていたのに、久しぶりに映画を撮ってみたらけっこうおもしろかった、特にエロシーンがね、といったことを、ぼそぼそと嬉しそうに語る今村昇平も、なかなかどうしてだ。


豚と軍艦/今村昇平(1961年) 
 豚と軍艦 [DVD]

ラストの盛り上がりに「豚スペクタクル」と呼びたくなった。湘南のやんちゃな若造を演じる長門裕之は、桑田佳祐そっくり。


★バージンブルース/藤田敏八(1974年)
 バージンブルース [DVD]

秋吉久美子主演だが、長門裕之つながりということにもなる。野坂昭如が出てきてギターを弾いて歌ったりもしている。しかし見るべきポイントがわからず退屈してきた。

『妹』『赤ちょうちん』『バージンブルース』は藤田敏八秋吉久美子の三部作といわれるが、ぜんぶ1974年に撮っているのが驚き。

秋吉久美子なら『さらば愛しき大地』がよい。→ http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20110723/p1


ブンミおじさんの森アピチャッポン・ウィーラセタクン(2010年)
 ブンミおじさんの森 スペシャル・エディション [DVD]

2010年カンヌ映画祭パルムドール。タイ映画で国際的評価を受けたのはこれが初ではないか。ということでみてみた。土俗的なところや静謐なところが新鮮だった。ただ、日本でも最近は企画物っぽい映画でこういうものもありそうな気がしてしまう。

タイは何度か旅行しているのに、タイの映画はみたことがなかった。どんな映画が作られているのかも知らない。一般に、ヨーロッパの国に関しては旅行より映画が先だが、アジアの国に関しては映画より旅行が先、ということが多いのではないか。そうなる理由は一考に値する。

カンヌのパルムドール作品でいうと、私の場合、行ったことがないアイルランドの近代を『麦の穂をゆらす風』でイメージしたり、行ったことがないルーマニアの現代を『4ヶ月、3週と2日』でイメージしたりする。

アジア映画のパルムドールは、これ以前だと今村昇平の『うなぎ』とキアロスタミ桜桃の味』(1997)がある。さらにさかのぼると、『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993年)、そしてまたまた今村昇平の『楢山節考』(1983年)。

ブンミおじさんの森』や『楢山節考』は、西洋の人に東洋的な死の感覚はこうなのかと思わせるのだろうか。


台北の朝、僕は恋をする/アーヴィン・チェン(2009年)
 台北の朝、僕は恋をする [DVD]

ただ、アジアでも台湾だけは私の場合違っていて、映画先行でどんどん好印象になる。

しかしそんなわけで、台湾は未だに行ったことがなく、ホウシャオシェンの昔の映画にあるような台湾は、結局もう見ることはできないだろうと諦めている。

ところが、『台湾の朝、僕は恋をする』をみたら、古い台湾とは別に現在の台北の普通の街がとても見たくなった。今すぐ屋台の食べ歩きに出かけたい。書店に行って棚に手を伸ばしたい。ファミリーマートで買い物してみたい。

エドワード・ヤンヴィム・ヴェンダースと関係が深い映画だが、2人の作品に直結する好さが、この映画には間違いなくあった。

いつも思うが、そもそも台湾の不思議な歴史は独特の興味を誘う。それは日本の20世紀といってもよい。もちろん中国の20世紀でもある。満州は幻のごとく消えたが、台湾は21世紀になっても奇妙な形式のまま存在し、それどころか大いに繁栄し、あまつさえ人々の多くは日本びいきですらあるという。考えれば考えるほど面白い。それなのに台湾に一度も行ったことがないというのは、やっぱり間違っている。

◎参考になるレビュー(リンク)→ http://blogs.dion.ne.jp/tacthit/archives/10048462.html


ゲゲゲの女房鈴木卓爾(2010年)
 ゲゲゲの女房 [DVD]

吹石一恵宮藤官九郎の2人がとてもよい。宮藤官九郎のトボけたところ、いろいろあきらめているところ、それでも温かく強いところが、特によい。NHK連続テレビ小説のほうは、ちらちらみても松下奈緒向井理にそれほど引き込まれることがなかった。宮藤官九郎の姿のほうが水木しげるの実状に近いのだろうということもある。

ところで、付録のメイキングでは、撮影の現場で鈴木監督がカメラマンからダメだしされ、「だったら俺はカメラなんか回さない」みたいなことまで言われている。監督は、吹石一恵にもちょっと迷いながらお願いするように指示しているシーンもあったようだ。そうした現場のコミュニケーション上の軋轢が、どうも他人事でなく思われ、心にしみいるようだった。

◎参考になるレビュー(リンク)→ http://d.hatena.ne.jp/crosstalk/20111109/p1


それから/森田芳光(1985年)
 それから [DVD]

80年代の森田芳光は『家族ゲーム』(1983)と『それから』(1985)の両方がキネマ旬報ベストワンになっている。同じころ伊丹十三も『お葬式』(1984)と『マルサの女』(1987)で二度ベストワン。1980年代日本映画の基本イメージも実際そんなかんじだ。

それにしては、『それから』は語られることが少ないとおもう。松田優作の主演、夏目漱石の原作でもあり、日本の優作ファンそして漱石ファンにおかれましても、さらなる注目を。

《明治時代、実業家の息子で職につかず高等遊民の生活を送っている長井大助(松田優作)は、学生時代の友人・平岡(小林薫)と再会。平岡の妻・三千代(藤谷美和子)はかつて長井が愛しながら身を引いていた女性であった。やがて長井と三千代はお互いの想いが再燃していくのだが……。
文豪・夏目漱石の同名小説を『家族ゲーム』『失楽園』などの森田芳光監督が完全映画化。明治という時代を様式化した美術や衣裳、小道具、台詞回しなど、ノスタルジックかつスタイリッシュな映像世界がめくるめくように展開し、その中から男女の愛がじわじわ醸し出されていく。抑えに抑えた松田の静なる演技も実に見事。梅林茂の悲しみの叙情をたたえた音楽も忘れがたい余韻を残してくれている》(増當竜也http://www.amazon.co.jp/dp/B000BDJ0XE

ところで、「なぜ代助は三千代と結婚しなかったのか」は明らかでなく、そうすると「なぜ今になって一緒になろうとするのか」という動機にも疑いが生じる。この話を純愛と捉えるのは正しくないのだという指摘がある。小谷野敦夏目漱石を江戸から読む』にもそんなことが書いてあった。asin:412101233X


伊豆の踊子西河克己(1963年)
 伊豆の踊子 [DVD]

吉永小百合高橋英樹の主演。

旧制高校の学生が伊豆を一人旅して踊り子に出会うというのは、近年でいえば、日本のバックパッカーがアジアあたりを旅行し、現地の人とつかのま交流して感傷やロマンを味わう、といったことに近いのだろう。

ノーベル賞作家の名作といわれ、しかも、複数のアイドルが主演して何度も映画化されているわけだが、べつに純愛物語として面白くはない。映画公開時にはみんな、美空ひばり吉永小百合山口百恵が見たくて映画館に行ったのだろうか?


街のあかり/アキ・カウリスマキ(2007年)
リミッツ・オブ・コントロールジム・ジャームッシュ(2008年)

2人とも最大限に好きな監督なのだが、近ごろは「まだみてないからDVDでみておくか」といった流れで接するせいか、「いかにもカウリスマキだ」「ああジャームッシュぽい」と堪能するものの、時間がたつと すっかり忘れてしまう。残念だ。残念なのは監督ではなく私の生活のほう。

ところで、ジャームッシュの映画で殺人のシーンは今まであったっけ? 


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↑ 映画DVD鑑賞記録 2011年 (4) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20111216/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2012年 (1) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20120819/p1