東京永久観光

【2019 輪廻転生】

速い・安い・うまい


とくに理由はないが、鈴木清順殺しの烙印』(1967)DVDを借りて見た。ASIN:B00005Q7NK

期待をはるかに超えて面白すぎ! 全編スピードと動きに満ち、意表をつかれ思わず見入ってしまう現場、画面、展開が次々に交錯。退屈はおろか目を外せる暇がない。スタイリッシュとはこういうことを指すのだろう。そして、そもそもこれらはみな、ただただカッコいいシーン、エロチックなシーンを作りたくて好き勝手やった結果にちがいないということが、ありありと想像でき、よけい嬉しくなってしまう。

森の中に突如現れる西洋近代風の高層木造建築とか、要塞のような建物とか、荒廃した波止場とか、無人のボクシングリングとか、いずれもたいして必然性はないと思えるのだが、とにかく刺激にあふれた絵柄やアクションのためだけに探し出されたのだろう。

こうしたシーンは、いつの時代も若い映画志望者なら無性に撮りたがる類いのものかもしれない。しかしまあ、40年も前に清純が全部やってしまっているんじゃないかと、結論したくもなる。

ご飯の炊ける匂いに闘志と性欲がかきたてられる男。そんな設定で、特にパロマのガス炊飯器を宍戸錠がうっとりとかぐシーンが頻発する。それだけでもう「ああこの映画みてよかった」と思う。

ところが鈴木清順は、この映画が「分からない」との理由で日活をクビになったことが知られている。特に社長が気に入らなかったのがこの炊飯器シーンだったとか。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AE%BA%E3%81%97%E3%81%AE%E7%83%99%E5%8D%B0

そうしてブランクを余儀なくされた清順は、10年後やっとスクリーンに復活、ほどなく『ツィゴイネルワイゼン』で新境地を拓くことになる。これはもう日本映画の正史だ。

DVDに添えられた鈴木清順インタビュー(2001年)がまたまた興味深い。

それによれば、当時日活には資金的ゆとりがなく、アクションとエロさえあればよしといった指令で作らされた一作のようだ。制作期間は4月20日〜6月9日とDVDには記されている。でも封切りが6月15日とあるから、いったい編集はいつやったのだと驚いてしまう。

さて、『殺しの烙印』の出来上がりを見た会社側からは「わけわからない」という声があがる。このことを回想して清純監督は、数人が分担し自分がまとめたという脚本の段階から「分からない、分からない」と言われていたことや、そのため会社に対して4、5回も説明を行ったことを証言している。

それに続くインタビューが以下(インタビュアーは上野昂志)。

上野「分からないというのも、(*それ自体もしくはそもそも)よく分かんないんですけどもね」
鈴木「(*同意して)分からない。アクションがありゃいいんじゃないかと思うけどね。うん、アクションと、ちゃんと裸を入れたんだからね」
上野「バラバラに入っているわけじゃないですからね」
鈴木「そうそうそう、筋はちゃんと通ってるんだからね。話は簡単なんだから」
上野「筋は通ってます、たしかに。ただまあ、気持ちかな、そうすると。感情移入して見ようとおもうと、どこにしていいのか分からない」
鈴木「そりゃだめですよね(笑い)」

そういえば数年前、家の近くの甲州街道沿いで、ドラマかなにかの撮影で出演するためか、あの風貌とベージュのジャンパーの清順監督を、私は見た。1923年生まれとのことだが、今なお健在なのだろう。殺しの楽隠居。


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◎過去記事へのリンク
東京流れ者http://www.mayq.net/junky0104.html#010530
陽炎座http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20060717#p1