東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2010年(2)


いのちの食べかた/ニコラウス・ゲイハルター(2006)
 いのちの食べかた [DVD]

ただ黙って事実を見せる。その威力。そのスタイルの良さ。

和歌山県のイルカ漁を告発した「ザ・コーヴ」は未見だが、もしや真逆なのでは?)

様々なものが呼び起こされた。食べ物はどう作られているのかという点ではもちろんだが、個人的になにかを表現する手段、個性的になにかを表現する手法といった点でも、希有なヒントをもらった気がする。


サラエボの花/ヤスミラ・ジュバニッチ(2006)
 サラエボの花 [DVD]

戦争では何が起こるか。戦争の後では何が起こるか。ある具体例を通してそれが身にしみてわかる。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は1992年から1995年 。けっこう新聞やテレビで見聞きした。冷戦終結ユーゴスラビア分裂。民族浄化セルビア人、クロアチア人、イスラム教徒が殺しあい憎みあう。都市の戦闘。ニュースで理屈を覚えた。しかし、日本や自分に置き換えるとどういうことなのか、今ひとつ分からない。結局そのままだった。ところが今ごろ、「そうか、そういうことか」とひとつ本当に納得できた気がする。ストーリー自体がそうした謎解きとも言える。映画または旅行とは、その町の光景や人の表情を直接見聞きする体験であり、良いものであれば特別に雄弁なのだといつも思う。2006年ベルリン国際映画祭グランプリ。

(とはいえ、旧ユーゴ内戦は西側に近いヨーロッパの悲劇であったおかげで、人道的な議論が世界的に行われたとも記憶する。しかし、戦争はその前にも後にもずいぶんたくさんある。でも考えてみると、私にはちゃんと実感できないもののほうがはるかに多いのだ。そんなことにも逆に気づかされる)

ちなみに、サラエボの冬季五輪は1984年。共産圏で初の開催だったという。これまた何も記憶がないが、Wikiで「スピードスケートの黒岩彰」という記述を見つけ、ああと思い出した。黒岩選手のラストスパート、その表情を当時だれかがよく真似をした。

紹介サイト:http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=8568


ウルトラミラクルラブストーリー横浜聡子(2009)
 ウルトラミラクルラブストーリー [DVD]

これほどタガの外れたケタの違った人物造形を思いつく人がすごいのか、それを思いつかせまた現前させてしまう松山ケンイチがすごいのか。その相互作用が農薬のごとき化学変化を加速させたとき、ウルトラ級の奇跡が映画に起こる。


インスタント沼三木聡(2009)
 インスタント沼 ミラクル・エディション [DVD]

「よろしくお願い島津藩」とか、通りがかりの2階の窓から中国女の頭のかぶり物をした人が黙って覗いているとか。隅から隅までひたすらバカなナンセンスがくすぐり続けるのだが、人の気持ちをどこか温かく楽にさせてくれる。このうちセンチメンタルの成分を少し増やせば、同監督の『転々』になるか。

『転々』感想:http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20080905/p1


ディア・ドクター西川美和(2009)
 ディア・ドクター [DVD]

評判通り。ひたすら楽しんだ。

視覚障害用の音声ガイドがついていたので、聞きながら鑑賞したみた。映っているものがいちいち指摘されるため、そこで把握すべき情報を見逃すことがないのが、おもしろい。たとえば、刑事2人は消えた医師(鶴瓶)の部屋に最初に入った時点でペンライトを見つけて手にしている、など。映画の1カットとは、ある空間と時間を区切った中に、ある事実とその意味を過不足なく埋め込んである、ということに図らずも気づかされる。そもそもカメラがぼんやり回っているなどということはまずないのだろう。とりわけこの監督は、そうした、意図に応じた濃密なカット作りが上手いのかもしれない。


外事警察NHKドラマ(2009〜)
 外事警察 [DVD]

知人の強力なプッシュがあって見てみたが、これも大正解!


書を捨てよ町へ出よう寺山修司(1971)
 書を捨てよ町へ出よう [DVD]

すでに40年近く経過していることもあるだろう。そもそも映画の枠に収まる表現ではなかったこともあるだろう。それにしても、このような「まっすぐにねじまがった」映画は近ごろ見ない。日本の国民や映画がもう十分に熟した、もしくは枯れたということなのだろうか。かなり久しぶりに鑑賞したが、やっぱり驚くことばかりだった。

◎『田園に死す』感想→http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20040414/p1

寺山修司がたとえばtwitteriPhoneを手にしたら、いっそうエキサイティングな表現を産み出すのだろうか。つまらないと言うだろうか。うまく想像できない。ともあれ、当時からすれば、twitteriPhone自体がコミュニケーションにとって魔術だろう。寺山修司が鮮やかで毒々しい挑発や仕掛けを作らなくても誰もが使える魔術)


流れる成瀬巳喜男(1956)
 流れる [DVD]
放浪記成瀬巳喜男(1962)
 放浪記 [DVD]

日本映画はかつて映画の会社が作っていた。専属の役者と監督やスタッフらが撮影所のセットに陣取り、純粋な職能と業務が集積するなかで、映画はシステマチックに恒常的に生産されていた。2作ともそんな黄金時代を代表する作品ということになる。―DVDの後に2冊の本を読み、そんなことに思いを馳せた。
 ◎成瀬巳喜男―透きとおるメロドラマの波光よ/田中真澄ら編(asin:4845995395
 ◎成瀬巳喜男の設計/中古智、蓮實重彦asin:4480871675
上は成瀬監督の全作品のデータを収録している。それだけでなく評価は意外に冷静で、最大限の賞賛をしているのは『流れる』『浮雲』ともう一作くらいしかない。下は成瀬映画の美術を担当した中古に蓮實がインタビューしたもの。成瀬はロケよりセットの撮影を特に好んだという。裏方の苦心がいくつかの名作を例に明かされている。

ヴィム・ヴェンダースなどはロケハンしながら撮影場所とともに撮影内容も決めていくような映画作りをしていたと思う。そっちのほうがずっと映画らしいと私は思ってきたが、室内や路地を意図に合わせて一から作ってしまう映画作りもまた、見ても語っても魅力はあふれているのだと思った。


男はつらいよ 寅次郎忘れな草山田洋次(1973)
 男はつらいよ 寅次郎忘れな草 [DVD]

シリーズ第11作。夜行列車の木製の席に座る寅次郎そして浅丘ルリ子。最多共演となるマドンナの初登場だ。到着した駅は網走。1973年にはまだあんな風情の夜汽車が走っていたのだ。なお、上野駅のシーンがあり、とうの昔に消えた福井行きの夜行「越前」の発車案内も聞こえてくる!(話とは無関係)


愛と希望の街大島渚(1959)
 愛と希望の街 [DVD]

大島渚のデビュー作。『戦場のメリークリスマス』や『朝まで生テレビ』の80年代からみると、ここにある若々しく貧しい時代はまるで別の国のようだが、今となってはその80年代すらもう本当に懐かしい昔だ。大島渚も日本もさらに老いていく。


あんにょん由美香松江哲明(2009)→http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100310/p1


サマーウォーズ細田守(2009)


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自分の現代史というものは、映画を見ることによって、わりと主要な部分が完成されていくのではないか。だから、そのメモをこうして残すのは、自分の現代史を記していることなのかもしれない。
 

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★タイトル/監督(映画公開年)
 二次情報が中心なので正確には元の資料を。


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↑ 映画DVD鑑賞記録 2010年(1)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100223/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2010年(3)http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20100724/p1