東京永久観光

【2019 輪廻転生】

映画DVD鑑賞記録 2012年 (1)


[日本]


秋日和小津安二郎(1960)
 秋日和 [DVD]
初鑑賞。原節子が、これまでみた小津作品中 最もいいと感じた。原節子は母親役で、司葉子が演じる娘と二人暮らし。娘が婚期を逃すのは心配だが別れるのはつらい。その気持ちがよく伝わってきたのだ。『晩春』では父と別れられない娘を原節子が演じていたわけだが、あれは父を愛しすぎて異様に見える。しかし今回『秋日和』の母と娘への共感を介し、『晩春』の父と娘も「まあありかな」と思うようになった。

ラストの原節子。結婚式から自宅に戻り初めて一人きりになった夜。布団に座る。その表情。最初は暗いが、次に「これでいいのだ、これがいいのだ」といった諦めと喜びのような笑顔がかすかに浮かぶ。静かに鳴っていた音楽が大きくなって、そのまま「終」。『晩春』のラストは笠がリンゴを剥きながらうつむいた。どちらも甲乙つけがたく、好い。

昭和中期のセクハラ親父連中は、毎度のことながら仕事はせず、私用の応接・ゴルフ・飲食ばかりで大丈夫かと思うが、和む。彼らに体当たりしていく岡田茉莉子の弾けぶり。

それにしても小津はモノローグカットがきわめて多い。その際の演技はいつも学芸会的。しかしそれが安心できるのだからしかたない。


東京暮色/小津安二郎(1957)
 小津安二郎名作映画集10+10 9 東京暮色 その夜の妻 (小学館DVD BOOK)
小津なのに原節子なのに火曜サスペンス並みに話の展開が激しいから、あっけにとられてしまった。でも私にはこの原節子のほうが「秋日和」と同じく見ていて違和感がない。

小津映画としては珍しく内容が暗いことで知られているようだ。だが評価は低い。親子・夫婦・男女それぞれの葛藤を提示しながらも結末を投げ出したなどとも言われている。しかし、そもそも小津安二郎という人は、そうしたいわゆる人間ドラマを追求した人なのだろうか。たとえば『東京物語』や『晩春』にしたところで、小津監督は、原節子の義父への情や実父への情というものを、心から信じ求めマジに賛美したくて、あのような映画にしたのだろうか。その根本への疑念がずっと消えない。

ちょうど山田五十鈴さんが亡くなったころに見た。これも初鑑賞。


お茶漬の味/小津安二郎(1952)
 お茶漬の味 [DVD] COS-023
淡島千景さんも津島恵子さんも今年亡くなった。しかし最近の活躍を知らないうえに、見るとしたらこうした古い映画における生き生きとした姿ばかりなので、なんとも不思議な気持ちになる。小津映画をみるたび、意識と時代は20世紀半ばに舞い戻り、そして留め置かれる。人は意図して選ばないかぎり現在を本当に生きることはできないのだろうし、反対に、過去を生きることも意図して選ぼうとすれば本当に選べるのではないか。


彼岸花小津安二郎(1958)
 彼岸花 [DVD]
まるで昔の少女漫画のごとくバカバカしく出来すぎたストーリーだが、やはりそれが楽しいと思うのだからしかたない。


東京流れ者鈴木清順(1966)
 東京流れ者 [DVD]
2度目の鑑賞。鈴木清順の映画が説明を放棄してもいいほど無闇に独特なのだから、小津安二郎の映画だって同じく説明を放棄してもかまわないのではないか。


八月の濡れた砂藤田敏八(1971)
 日活100周年邦画クラシック GREAT20 八月の濡れた砂 HDリマスター版 [DVD]
70年代の藤田監督作品は秋吉久美子主演の2作(『妹』『赤ちょうちん』)を見ているが、こっちのほうがピンときた。これぞ「70年代の気だるさ」かも。音楽がまたよい。ストーリーはいい加減なのだがむしろムードに合っている。それにしても、明るい空と海が出てくると、それだけでフランス映画っぽいというか、ゴダールっぽいというか。なおテレサ野田は14歳だったそうだ。


八日目の蝉/成島出(2011)
 八日目の蝉 通常版 [DVD]
まとまりのよくない話だと思う。誰の視点なのか。誰が悪いのか。誰を応援すればいいのか。迷い続ける。そうこうしているうちに場所も物語もどんどん推移する。しかし、こうした歪さにこそ、リアルというのはふと宿る気がするのだ。「続・夕陽のガンマン」や「飢餓海峡」が抜群に面白かったのと似ている。


モテキ大根仁(2011)
 モテキ DVD通常版
森山未來長澤まさみ仲里依紗と仲良くなっていく怒濤の流れ。タイトルのおみこし映像の勢い。Perfumeが吉祥寺の町にいきなり飛び出てくるPV的展開。堪能した。異才の監督だと思う。しかし後半の長澤まさみの苦悩はこの話にそぐわない。麻生久美子の痛々しさは本人自身であるかのようで本当に痛々しかった。それからリリー・フランキーが素晴らしくよかった。


ボーイズ・オン・ザ・ラン三浦大輔(2010)
 ボーイズ・オン・ザ・ラン [DVD]
リリー・フランキーが「モテキ」と同じようによかった。小林薫もよかった。仕事や恋愛にもがく若者の姿も最大限に切実だとは思うが、もはやなかなか自分のことのように共感はできない、年齢的に。


精神/想田和弘(2008)
 精神 [DVD]
精神科のつつましい診療所における患者と医師のやりとりを淡々と映したドキュメンタリー。では、精神科の患者ではないいわゆる健常な人をこのように淡々と映したのでは退屈きわまりないものにしかならないのか。…というと、そんなこともないのではないか。カメラが人の素の行動や意見を撮るというのは、それ自体すごいことなのではないか。…などと思わせるところこそ、このドキュメンタリーが傑作である証なのかもしれない。


[海外]


エデンの東エリア・カザン(1955)
 エデンの東 [DVD]
上記「東京暮色」の、出奔した母親に子供が出くわす設定は「エデンの東」の娘版だというので、そうだっけと思って借りた。横に長い総天然色画面はじつに豪華。田園の町並み。酒場の活気。鉄道の走り。参戦のパレード。遊園地と観覧車。製氷小屋やレタス出荷の様子も意表を突いて面白い。1917年当時のアメリカが現出しているのだろうか。スタインベックの原作小説も読んでみたいと思わせる。ジェームズ・ディーンはかつてほど顧みられないようだが、不良にして善良な苦悩美青年の先駆であったことを確信する。


波止場/エリア・カザン(1954)
 波止場 コレクターズ・エディション [DVD]
若きマーロン・ブランドの独特の風貌、とりわけずっしり重そうなまぶたが目に焼き付く。アカデミー賞8部門を独占したそうだ。「エデンの東」もそうだが、エリア・カザンは真面目だと思う。


アバタージェームズ・キャメロン(2009)
 アバター(期間限定出荷) [Blu-ray]
我が家も大画面テレビを買ったので初ブルーレイ鑑賞として。それとあの岩山の風景のモデルとなった中国・張家界には実際行ってビックリ仰天していたこともあって。そういうことでもなければ見なかった映画かもしれない。しかし映画は映画でビックリ仰天した。


シャイニング/スタンリー・キューブリック(1980)
 シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]
これもブルーレイがあったので、久しぶりに見た。ジャック・ニコルソンのみならず妻も息子も役者がやっぱり素晴らしい。ああいう大自然に抱かれた大ホテルに私も一人だけで住んでみたいものだ。夏に。


ハングオーバートッド・フィリップス(2009)
 ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
くりいむしちゅーの番組で有田が推薦していたコメディ。アメリカ的笑いの鉄板セット、誰もが満腹、といった一作なのではないか。


ペルシャ猫を誰も知らないバフマン・ゴバディ(2009イラン)
 ペルシャ猫を誰も知らない [DVD]
イランという国の特異性や国際問題での重要な位置がしばしば説かれるが、基礎イメージがなかなか定まらない。そのとき映画はよい入口になると思う。そしてこの映画は音楽というもう1つの好ましき入口も示してくれる。


オールド・ボーイパク・チャヌク(2003韓国)
 オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]
壮絶。描き方が半端でない(これでもかこれでもかと) 原作は日本の漫画。狩撫麻礼土屋ガロン


10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス(2002)
 10ミニッツ・オールダー コレクターズ・スペシャル [DVD]
最も印象に残ったのはヘルツォークのドキュメンタリー「失われた一万年」。エリセ作品は3時間くらいに伸ばしてほしい。


ガタカアンドリュー・ニコル(1997)
 ガタカ [DVD]
遺伝子操作で子供を作るのが当たり前という未来的な設定なのだが、人物たちの苦悩はきわめて旧来的立った。


ターミネータージェームズ・キャメロン1984
 ターミネーター [DVD]
ターミネーター2/ジェームズ・キャメロン(1991)
 ターミネーター2 特別編 [DVD]
こんな有名映画をまだ見ていなかったので。娯楽大作の条件とは観客を強烈に揺さぶることであり、複雑に考え込ませることではないのだろう。


ロング・グッドバイロバート・アルトマン(1974)
 ロング・グッドバイ [DVD]
原作と違い、キレイな話ではなかった。


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↑ 映画DVD鑑賞記録 2011年 (5) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20111218/p1
↓ 映画DVD鑑賞記録 2012年 (2) http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20121023/p1