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【2019 輪廻転生】

★廃市/大林宣彦(1984)

大林宣彦『廃市』(1984

『転校生』『時をかける少女』に続く映画だが十分知られていない。私も忘れていたがツタヤにDVDがあったので視聴した。公開時以来だろう。それ以前に福永武彦の原作を読んでいたことも思い出す。この映画は青年期の回想だが、私も当時青年だったので妙な感触。

水路が麗しい柳川の旧家に、根岸季衣小林聡美の姉妹がいる。姉は夫(峰岸徹)を迎えたが、「夫はじつは妹が好きなのだ」と疑っている。そんな3人の心のうちと、それをめぐって起こった出来事を、この家に卒業論文を書くためにやってきた青年が、回想していく。

古い日本家屋を舞台に身内の隠された愛憎がしだいに明かされていく趣きは、まるで横溝正史ミステリー。実際、「誰が誰を殺したのか?」に代わって「誰が誰を好きだったのか?」という謎に、純朴な青年が金田一に代わって巻き込まれていくのだから、やはりミステリーか。

それだけでなく、映画には原作にない人物がひとり設定され、その人物が実は探偵だったのであり、最後になって「意外な真犯人」を指し示す、と捉えてもよい。結末のシーンはそんなかんじだった。

 

しかも今思い出した。映画『悪魔の手毬唄』。事件も片付いた最後のシーンは『廃市』と同じく駅のホーム。列車に乗り込む金田一石坂浩二)は、見送りに来た磯川警部(若山富三郎)に、ある重要な問いかけをする。それもまた「誰が誰を好きだったのか」の類。こちらでは真相は語られず示される!

 

参考:

http://www.oct-net.ne.jp/mhrb/yanagawa/yanagawa.htm

http://popmaster.jp/movie/akumanotemariuta/

 

あれこれ書いたが、最も言いたいのは『時をかける少女』より『転校生』より私は『廃市』を推すということ。もう1つ、青年が恋愛を回想する文体、遠く時間が隔たってもう取り戻せない寂しさ、悔み、諦め。これやっぱり福永武彦ならではの感触だと改めて確信し、つい私も遠い目になったこと。

原作で主人公の青年がその福永文体で問いかける純真な文言を、映画はときおりそのままナレーションで伝えてくる。あまりこなれないその声は、誰だろうと思ったが、最後になって、そうかこれは大林監督自身だと気づいた。そのあたりも非常に印象的だった。

 

さて話はこれで終りではない。実はこの物語との対比で『存在の耐えられない軽さ』について思うところがあった。