東京永久観光

【2019 輪廻転生】

ヨナ抜き、饒舌、セレナーデ


太田裕美を聴く。ちょっと忘れていた歌ほど懐かしい。「南風」とか。なんだか言葉数がやけに多いのが面白い。

《Let's Shine 出逢いは突然で 目がくらんでしまった Just Now 君の瞳の謎を今年は解いてみせる 君は光のオレンジ・ギャル》

https://www.youtube.com/watch?v=9dtRnyJlzZU

こういうイメージの歌手は当時いなかった気もする。何が独特だったのか…。木綿のハンカチーフは男女掛け合いの歌詞で、こっちの「南風」は男子のことば。「さらばシベリア鉄道」もそうか。そういう表向き中性的というか、いかにも女子らしい声があえて男子の心を歌うというところか。

ところで「木綿のハンカチーフ」。女子が歌おうが男子が歌おうが、そもそも「恋人よ〜」などという呼びかけを実際にする男子はいない。流行歌とはいわば文語であるのか。なんとなく新古今和歌集的? 「あなた最後のわがまま 贈り物をねだるわ」なんてフレーズも実際には誰も口にはしないだろう。

木綿のハンカチーフ」はしかし、テンポが思ったより早くて小気味良い。ベースやギターのカッティングも速い。歌詞はきわめて類型的な物語なのだろうが、2人のやりとり4回だけですべて入れ込んでいる。これでも最初は「歌詞が長い」と筒美京平は言ったそうだ(Wikipediaによる)

言葉数が多いということでは「雨だれ」もそう。「二人に傘がひとつ 冬の 街を はしゃぐ 風の ように」 それと楽曲が異様にドラマチック。松本清張シリーズのBGMほどに。じつは幸せな歌詞なのにひどく悲しい曲調というのも面白い。

http://www.youtube.com/watch?v=3P_NTt3Dp0w


それにしても、「南風」に聴き入ってしまったのは、懐かしいだけか、よくわからない。そんなに聞いた覚えがないから、かえって不思議。

1980年の曲というので、この年のヒット曲をみてみると…。

◎参考 http://www.hitsong.jp/year/y1980.htm

びっくり。有名な歌があまりにも多い。これじゃ埋もれてもしかたない。

私が1980年の曲として最も記憶しているのは「TOKIO」。糸井重里の名とともに。日本社会の70年代と80年代の空気の分水嶺のようなものが、この年やこの歌にはあると思ってきた。もういろんなこだわりはやめて世の中がさ〜っと明るくなっていった印象。


ひとつはっきりわかることは、人はときとして予想もつかないことで口数(ツイート)が多くなるということだ。寡黙すぎるより良いではないか。それとももっと黙っているほうが良いのか。わからない。


ところで今回 太田裕美を聴いたのは、『亀田音楽専門学校』というNHKの番組で、「木綿のハンカチーフ」は前半ヨナ抜き(ファとシの音がない)で、「いいえ、あなた」のところで初めて「シ」が出てくるから情を誘うんだ、といった趣旨の話を聞いたからだ。

大昔「踊るポンポコリン」がヒットした時も、これはヨナ抜きが人気の秘密ですという解説を聞いたが、この歌も番組に出てきた。しかし、ヨナ抜きは私の感覚では第一に「ださい」ので、「木綿のハンカチーフ」がヨナ抜きと知って意外だった。

YMOライディーン」もヨナ抜きで、たしかにダサい(狙いかもしれないが)。ただこれが、「戦場のメリークリスマス」みたいなエスニック風になると、ヨナ抜きはダサく聞こえず、まさに異国風の好印象になるのは、不思議だ。

きゃりーぱみゅぱみゅは、ダサい+別の強力ななにかの合金なので、もはやださくないのだった。

……あれ、「TOKIO」もサビまではみごとにヨナ抜きだ。う〜む。

しかし『亀田音楽専門学校』は「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」に比べ、あまりにも初歩的だろう。次回は「メジャー7コード」についてという。あまちゃんのテーマ曲の最後がメジャー7だという話のようだが、あの曲のそこだけに注目するのか? それにあの最後は転調こそがポイントなのでは?

http://www4.nhk.or.jp/kameon/x/2013-10-24/31/30526/