東京永久観光

【2019 輪廻転生】

バーザールでごーざーる 


複雑さを生きる やわらかな制御』(安冨歩asin:4000263501

表紙も書名もそっけなくて、ためしに読んでみるかという感じだったのだが、これがじつに、原理的かつ実践的な知恵を無尽蔵に与えてくれる、そんな一冊になった。

どのような原理や実践かというと。

複雑なものと複雑なものを、無理に制御したり制止したりせず、自ら反応し合うのに任せておけば、それら本来の複雑さこそが発揮されることによって、なんかうまくいく。それが人間の身体や心であり、人付き合いであり、仕事であり事業であり、経済であり社会である、といったようなこと。それはまあ摩訶不思議としか言いようがないが、そういうものなのだろう。(引用ではないのでご注意を)

もっと詳しく吟味して紹介したいが、余裕がない。とりあえず。

仕事とはだいたい、ややこしい要素をややこしく組み合わせてますますややこしいものを新たに作っていく作業といえる。そのとき、多数の要素をきっちり分析しさらに多数になる連結や反応をことごとく予測してそのとおりに実行するなんて、本当はできるはずがない。ところがたいていの仕事はまあ結局どうにかこうにかちゃんと終わる(たいていはね)。ということは、我々の知力というのは予想ガイに凄いのではなかろうか。あまりガチガチのお節介をせず自由に泳がせておけば、おそろしくややこしいことを平気で勝手にやり遂げてしまう、のかもしれない。あるいは、もう頭が爆発する寸前、ぱっとした思いつきで要素どうしをともあれ並べてみると、なんだかそれらしくなってきて、あとはいわば要素どうしが無数の手をもぞもぞ動かして勝手につながってくれる、のかもしれない。そんな奇跡が起こっているとしか言いようがない実感は、だれにもあるだろう。

というわけで、毎度のごとく崖っぷちなのだが「なんとかなるさ!」(たいていはね)


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著者 安冨歩という人は、雑誌『インターコミュニケーション』(2006年春号)で知った。岩井克人鈴木健東浩紀の各氏と対談していた。
http://www.nttpub.co.jp/ic/ic002.php?id=26&Submit=+GO+

それにしても、『インターコミュニケーション』は、なんというか、きわめてアクセスしにくい雑誌だ。そもそも季刊なので存在すら認識されにくい。この号を買ったときも、吉祥寺のそれなりに大きな本屋だったのに、雑誌コーナーに見当たらず、店員に聞くと2人が入れ替わりで雑誌名を確認しつつどこかへ探しにいってやっと出てきた。アマゾンでもはてなでもなんだかアクセスしにくい気がする。しかし、中身はなおさらアクセスしにくいのである。「情報社会のファンダメンタルズ」特集の「貨幣・法人・バザール」(これが件の対談)。ふつう手のつけようがない。しかし、それを我慢してためしにアクセスしてみると、たしかに難しすぎるのであるが、同時にたぶん面白すぎる。侮れない。
はてなInterCommunication


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「複雑さを生かしたやわらかな制御」というのは、自分の周囲を眺めてみるといろいろ好例は見つかるものだ。一方、ちょうど「学校のことは忘れて欲しい」(内田樹)というのを目にし、これを読むかぎり、安部政権の進める教育改革が、いわば「やわらかな制御」とはまるきり正反対の好例であることがあまりにも鮮明で、笑えるほど勉強になった。
http://blog.tatsuru.com/archives/001961.php