東京永久観光

【2019 輪廻転生】

幻覚キノコの代わりに 鈴木清順『陽炎座』


鈴木清順の『陽炎座』をDVDで久々に見て、腰を抜かす。うわこれほど凄かったっけ。前作『ツィゴイネルワイゼン』がなんだか大人しく渋い映画に思えてきた。

楽しみどころは、全部。ともかくDVDを借りてモニターの前に座るべし。見始めたら最後、もう一瞬たりとも目が離せない。

だからここでは、あまり指摘されていないかもしれない一点だけ。全般に映像のつながりが悪くないだろうか。すなわち、今のカットは前のカットの続きなのになんかスムーズにつながっていないと感じることがけっこうあった。映画の撮影自体は当然カットごとに区切って行われるわけで、それを編集の技ですんなりつなぐのが常道だろう。でもこの映画は、そのつなぎに拘ることを「あえてはしなかった」または「あえてしなかった」かのようにも思われるのだ。

結果として、私は同じものを見ているのにカットの前後で空気が微妙に入れ変わっている、とでもいうようなヘンな感触。ただそれはうっすらした変化にすぎない。なにしろ『陽炎座』は、全編にわたってその世界があまりにあまりにどぎつく変転する。だからカットのつなぎの微妙さまでいちいち気に留めていられない。それでもそのうっすらした違和感はしだいに募っていく。映画全体の不可解さに案外効いているのではあるまいか。

断続の撮影を連続の映写に変えてしまう映画とは、そもそも「夢のつながり」を常に生産しているということなのかもしれない。この世からあの世へ、するりと転回するために、なにも難しいやり方は要らない。カットをただ無造作につないでみればいい。


陽炎座 asin:B00005NS43
ツィゴイネルワイゼン asin:B00005NS42