東京永久観光

【2019 輪廻転生】

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ホテル・ニューハンプシャー』(ジョン・アーヴィング)。

人生がもう終わろうとする人には優しい物語がいいし、人生がいま始まろうとする人には激しい物語がいいだろう。でも、そのどちらでもない中途半端な年頃(中年)で、しかも過去にも未来にも凡庸さや疲労しか見いだせない程度の敏感さは培ってしまった者に、それでも心の態勢を整え保っていくための手がかりを期待させる、そんな物語たりうるには、優しさや激しさは並大抵ではダメだ。人生は素晴しいとか人生はくだらないとかの感動ですませるのは、書くほうも読むほうも案外簡単なのかもしれない。しかしそれ以上に、オレの半生だって「けっこう素晴しかったのかも」という調子の良さや、「ああ実にくだらなかった」という調子の悪さも、中途半端に使い古してしまっているわけで、そんな埃をかぶった薄い蒲団みたいな半生を、今いちど日干しでも打ち直しでもしてみようかと改心させるほどの、素晴しい、くだらない、優しい、激しい物語というのは、なかなか無いんじゃないかと思う。『ホテル・ニューハンプシャー』はいい線いってた。

この作品を「レイプによる苦悩を克服する一家の物語」と捉えてみて、伊坂幸太郎の『重力ピエロ』を思い出した。『重力ピエロ』は、編集者自らが帯で絶賛するほどではないにしろ、面白く前向きな小説だった。しかし、たとえばレイプ犯が絶対的な悪人でしかないあたりに、なんとなくの物足りなさというか限界みたいなものも感じた。それに比べ『ホテル・ニューハンプシャー』は、レイプ犯の処置も含めて明らかに複雑な小説なのだ。


ホテル・ニューハンプシャーASIN:4102273034