東京永久観光

【2019 輪廻転生】

よく効く薬


家の前から道路に出たところで、ちょうどこっちに歩いてきた女性が息をのむように立ち止まる。私が「あ、すいません」と応じると、表情はすぐ和らぎ「この辺危ないって聞いてましたので」と照れ笑い。まあ昼間っからそれほど物騒なわけはないのだが、問題は私のマスクである。因果な病だ。

とはいえ、花粉症3年目の私が、今年はなぜかまったく大丈夫。予防薬が効いているのか。花粉症の治療は症状が出てからでは遅いという。しかし人間というのは(鶏ではないのだが)、あんなに辛かった鼻水のことを、まる一年たつとすっかり忘れてしまい、つい「このままなんとなかるんじゃないか」なんて気がしてくる。しかし桜と同じで律義にやってくるのがスギ花粉。昨春はそれを思い知った。だから今年は2月上旬から医者に行き薬(アレロック)をもらったのだ。

みみっちいが、費用は診察と薬(2〜4週間分)合わせてたしか2千円余り。去年は苦しんだあげく薬屋へ走りティッシュの箱も日々空にしたのだから、よほどマシだ。一般に花粉症の薬はよく効いて副作用もほとんどないと聞く。私も今のところ1錠でばっちり(症状が出たら2錠にせよとのお達し)。こんな簡単なことなら去年もそうすればよかった。薬とは総じてありがたいもの。小粒にして神妙の一粒だ。ところで貧乏にも薬はある。これがまたよく効く(らしい)。

「貧乏に効く薬って?」「ようするにおカネのこと」

ところでイラクサマワに駐留する自衛隊が地元から土地代をふっかけられ、相場の数十倍を払わされるハメになったとか(読売の記事)。「わかったよ、じゃあ俺たち、帰るから」。テレビで見るにつけ人柄の良い佐藤隊長はそうは言えなかったらしい。アメリカの子分になるだけでなくイラクでもパンを買いに行かされるのが人道復興支援か。世界で一番お人好しの日本の私としては、交渉のアホらしさは身にしみてわかる。どうせなら、金だけを気前よく出す弱虫バカのふりを最初から通したほうが、よかったのでは。日本の私たちは、そっちのほうがよほど得意なんだという実感が、なんとなくある。

とはいうものの、中東の砂漠の民にとっても、フセインだか誰だかの顔が印刷された紙切れなんかより、ドル札のほうがよっぽど値打ちがあるということを、この交渉はありありと示す。イラクの人もアメリカの人も日本の人もまったく同じ貨幣というからくりによって幸せを得る。地球の果てでもドルさえあれば何でも買える。でもそれならわかる。我々が結局何を求めて戦っているのか、少しだけわかる。

しかし、貧困もああなってからでは遅いよ。もっと早く薬を処方しておかないと。