https://tokyocat.hatenadiary.jp/entry/2023/07/02/000000 からの続き
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スティーブン・ピンカーは下巻の最後に「なぜ人々はこんなに非合理なのか」と問う。
たとえば、トランプが勝ってしまった大統領選のとき「ワシントンのピザ店の地下には児童買春組織がありヒラリー・クリントンがそれにかかわっている」という噂が流れた。
およそありえない内容にあきれ果てるけれど、興味深いのはこの種の噂がもつ1つの構図だ。それは、本当だと信じているわりには、当然の行動(この場合は警察に通報するなど)をする者がほぼいないこと。――あまりにも奇妙な陰謀論が生息できる理由を同書はこの点に見いだしている。
つまり、私たちが思っていることには「現実ゾーン」と「神話ゾーン」があり、マインドを使い分けているのだと言う。
たとえば「あのピザ店は窯を使っていてランチ時には1枚1500円」といった現実ゾーンの信念なら、誰だって真か偽かを曖昧にしたりはしない。ところがヒラリーが絡んでいるピザ店は神話ゾーンにある。このゾーンについて人は思いを巡らせても なにかを発見することはない。発見しても生活に目に見える違いは生じない。神話ゾーンの信念は人を楽しませたり刺激したり啓発したりする物語にすぎず、真か偽かを問うのは無意味だ(要約引用)
いっそう興味深いことに、宗教もまた現在では神話ゾーンの信念なのだとピンカーは考察している。ドーキンスやデネットらが無神論を主張したとき、宗教的な知識人は「神は実在する」と反論したのではない。「神の存在を真偽の問題として扱うのは不適切、野暮、ご法度」として非難したのだ、と。
さてここでピンカーは、トランプ崇拝者には「それって神話ゾーンの話でしょ。ちょっと頭を現実ゾーンに切り替えてホントかウソかよく考えてくださいよ」と諭しているのだろう。しかしキリスト教の信仰者にそれを望んでいるようには見えない。現実ゾーンと神話ゾーンの混同に注意を促すだけで。
さてしかし、そうなると私としては、どうしても問いたくなってくるーー かねてより気になっている「死」というのは、いったい現実ゾーンの話なのか、それとも神話ゾーンの話なのか、どっちなのだろう!