(ここからの続き↓)
この本の素晴らしさは、専門家の知識を述べ立てるところにはない。誰もが知る現世人類の道程から「言われてみればそのとおり」の事実と評価をいくつも提示することだ。そのサピエンスの事実は決定的な驚愕に値し、しかもその評価の優美さは空前のものだ。
サピエンスがもたらした事実と評価、最後に語られるのは特異点(シンギュラリティ)だ。そして「特異点」が、もとは物質時間空間すべての始まりを指す用語だったことを思い出させる。つまり、今迎えつつあるのは、この世に1度しかないはずだった転換・爆発の2度目だということ。それほどのこと。
ただしそれは、サピエンス史の終わり、もしくはサピエンスとは無関係の歴史の始まりになるだろうということも、著者ははっきり述べる。
それにしても、この本は30カ国で高い評判を得たという。本の内容はきわめて深く広いわけだが、世界の読者の多くは、語られることがらを曖昧ながらもいくらかは知っているし、しかもその意味をも漠然とではあるがときどき考えているのだろう。そうした著者そして読者たちとの静かな共振こそ僥倖だ。