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【2019 輪廻転生】

人工知能と経済の未来とニートの万歳と地獄


先日、<ワークショップ「人工知能と経済の未来」を考える>というのを見てきたのだった。http://peatix.com/event/196236 

知名度の高い学者が多く出てきたこともあり、充実したひとときだった。

井上智洋『人工知能と経済の未来』をめぐる質疑応答の形式で進んだ。この人のことは以前『偽日記』(下記)で知り、「お金を銀行が抱え込み我々が利子を払ってまでして借りるなんて、そもそも大間違い!」といった主張がとても刺激的で気になっていた。

http://d.hatena.ne.jp/furuyatoshihiro/20121023

人工知能と経済の未来』は未読だが、この日の井上さんの話からすると、どうやら、「人工知能が仕事の大半を肩代わりするようになれば、われわれの多くは失業するのだから、ベーシック・インカムでなんとかするしかないよね」という基調の本であるらしかった。

つまり「ニート万歳」の楽天気分。ただしこれに対し、登壇者の1人である稲葉振一郎さんは「ユートピアというよりディストピア」である可能性をチクチク指摘。それがまた面白かった。なお、稲葉さんを見たのは初めてだが、予想外に「弱気なオタク」の印象だったので、好感度がアップ。

人工知能の専門家は浅川 伸一さんという人が1人。たまたまこの方の著書(『ディープラーニングビッグデータ機械学習』)をちょっと前に手にしていた。ただ、本の核心部は私の理解力を超えていたため、どうせ難しげな人なのだろうと思っていたら、お茶目でサービス精神旺盛で、これまた好感度アップ。

飯田泰之さんはテレビで見るとおり、格好も表情も口調も実にさわやかでにこやか。若田部昌澄さんはホームグラウンドということもあってか盤石の印象。矢野浩一さんの進行や整理もスムーズだった。それと参加者には幅広い研究者が多かったようで、高度で興味深い質問が連発した。

中身についてもちょっと書いておくと。井上さんが考える人工知能のレベルは、一般の労働者がやっているような仕事はいずれもだいたいこなせる、といったもので、そのレベルの人工知能なら間違いなく早晩実現しそうであり、今からそれを具体的にイメージしておくことは現実的な意味があると思った。

「シンギュラリティーは近づいているのか」といった問いがどうしても浮上するわけだが、それに対し、「仕事しながらスマホでだらだらSNSできるようになったことは効用の上昇と見るべきかもしれない。でもそれはカーツワイルが言うシンギュラリティとはまったく違うのではないか」と若田部先生。

同様の問いに、浅川さんは「論文のアーカイブべき乗則で増えている。これは人間の(論文読解の)能力をもはや超えている」。おまけに「その論文を電車に乗りながらスマホでどんどん読まされる日々だ」とアイロニーを込めつつ述懐。つまりシンギュラリティーはもう来ているという見解だろうか。

生活実感のレベルで最も注目すべき変化だと私が常々思っていたことは、おそらくこの浅川さんの感触にかなり近いのだと感じられ、なんとなく勇気を得た。

会場からの質問で、リクルートの研究者だという人が、「機械は変わるが、成長の遅い生物である人間はなかなか変われない。そのため、生産性を高めようとすれば人間は無理がたたって壊れていく。人間は絶滅危惧種だ」と述べていたのが、これまた面白かった。

最後に井上さんは「私たちは早めに価値観を変えるしかない」と呼びかける。すなわち「ニート万歳」の価値観へだ。それをめぐり、近未来の人間は「子を生まなくなる」という変化が起こりうる。「その点ではAIよりVRのほうが恐ろしい」とも言っていて、う〜んたしかにそうかも、とため息が出た。


人工知能と経済の未来
 人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書)