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【2019 輪廻転生】

★イスラーム国の衝撃/池内恵

 イスラーム国の衝撃 (文春新書)

読み始めたが、評判どおり、いろんなことが明瞭に整理できる。

アラブ世界ではラマダンの時期はテレビドラマの書き入れ時なんです、という話が冒頭にあって意表をついた。「イスラム国」とその親分たるバグダディはその時期を狙ってネットデビューしたというのだ。

つまり、イスラム国は「ドラマの台本」としてはよくできていると、著者は言う。

ラマダーン月の連続ドラマに耽溺して一瞬現実を忘れようとするアラブ世界の民衆に、あらゆる象徴を盛り込んだ現在進行形の、そして(視聴者がもし望むなら)双方向性をもたせた「実写版・カリフ制」の大河ドラマを提供した「イスラーム国」は、インターネット空間に没頭し、リアルとヴァーチャルの境目を曖昧にした現代人の想像力と感情に訴えかけ、国民国家の境界を超越しようと夢見る反近代・反欧米を世界各地で刺激した》

テレビやインターネットへののめり込みは、やはりイスラム国を語るのに欠かせない観点なのだ。日本の私がたとえば『山田孝之東京都北区赤羽』や『クソコラグランプリ』を捨て置けない気持ちは、イスラム国の連中の現代感覚とも通底するのだろう。

あいつら、首斬りする以外は、あんがい私たちと似ているのではあるまいか。絶対的な他者かと思い込むのは間違いかもしれない。「話せばわかるはずなのに話さないだけ」の可能性もある。

参照:http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20150131/p1


アラブの春」でエジプトなどがイスラム穏健派をいったん呼び込んで拒絶し、それがむしろイスラム過激派の躍進につながったというからくりも、非常に興味深い。それに続くシリア内戦はイスラム国の拡張にとって決定的だった。またそれに先立ち、アラブの春に似た混乱をわざわざ外から勝手に作り出したのがイラク戦争フセイン政権崩壊)だったという指摘も、苦々しくうなずかされる。

さらには、イスラム国はアフガニスタンタリバン政権(領土支配)とアルカイダ(国際テロ支援)の両方の要素をもっているとの見方に、なるほどと思わされた。


さて。アッバース朝のカリフとかオスマン帝国のスルタンカリフとか、このあいだ『世界史』(マクニール)では出てきた気がするが、それがなければ高校の世界史のテスト以来のキーワードだ。ところがその「カリフ」という認識の重みが、またまた国際政治を左右しようとしている。21世紀にもなって。