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【2019 輪廻転生】

★心の仕組み/スティーブン・ピンカー(再)


 心の仕組み 上 (ちくま学芸文庫) 心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス)


「人間はある個人を愛するのであり、ある種の個人を愛するのではない」(スティーブン・ピンカー)。なるほど。国民もある政権政党を支持するのであり、ある種の政党を支持するのではない、とも言えるかもしれない。

かれと同じ「A性格+B性格+C性格」だからといって、同じように愛せるとはかぎらない。かれらと同じ「A政策+B政策+C政策」だからといって、同じように支持できるとはかぎらない。ということ。

なお、ピンカーは、ニューラルネットワークなどを親切に解説しつつ、心は計算理論(人間の認知を計算の原理でみていく)で分析するからこそ本質的に解け始めたんだと、強固に主張するのだが、そのうえで、でもそれでも解けないことの1つが「個体認識」なんだよね、と言う。

とはいえ、ひょっとしたら、ある個人を愛せるだけで、ある種の個人を愛せない、という人間の「不合理」を乗り超える契機が、あいかわらず強引だが、情報ネットワーク的(つまりSNS的)な生活・人生にはあるように思える。そう考えると、人工知能はもとからその「不合理」を乗り越えている?

それにしても、今、どんな話をしはじめても、いつのまにか保育園の話とかシリア難民の話につながってしまうように、人工知能の話につながってしまう。


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もうちょっと『心の仕組み』(上巻まもなく熟読完了)について実質的なことを書いておくと:

ピンカーは、人間の心には階層性や構造があるに決まってるだろ、と言いたいのだ。

つまり、人の体は分子がただ無数に集まって出来ているのではなく、分子よりはるかに複雑な細胞があり、さらには細胞よりはるかに複雑な臓器があり、そうした成り立ちによってこそ人体はこれほどみごとに機能する。人の心も同じだろうと。

つまり、人の心(脳)は、ニューロンがただ無数に集まっているだけなら、これほどみごとに機能するわけがないと。ニューロンの集積にも、人の体における細胞や臓器にあたるような階層や構造があるに決っていると。

それにしてもピンカーはなぜこのことをこれほど強調するのか。それは「刺激→反応」ですべてを説明しようとするかのごとき「行動主義」を否定したいからだ。また、人の心は「生まれた時はまっさらな空白の石版だ」という説を強固に否定したいからだ。何でもかんでも「学習」で身につくわけではないと言いたいのだ。読んでいて、それが徐々に伝わってきた。

考えてみれば、そもそもピンカーは「人の心は生まれつきそうとう作りこまれている」という立場だった。それをやたら強調して支持されたり嫌われたりしてきた人だ。誰もが言語が話せるのも脳にその仕組みが作りこまれているからだ、というチョムスキーの立場を継承・発展させた人だったかとも思う。

そして、人の心が、なんでこんなにうまいこと作りこまれたのかという問いに対し、そりゃもちろん自然淘汰(進化)だよねと、『心の仕組み』は展開していく。上巻では、心が自然淘汰の産物であるという主張に対する様々な誤解や攻撃を一掃していく。心と自然淘汰の各論はどうやら下巻のようだ。

そんなわけで、『心の仕組み』(上)は、心の仕組みが計算でありうる原理、心の仕組みが進化でありうる原理を、圧倒的な量と質で説く。反論を完膚なきまでに(還付なきまでに?)叩きのめす。意地悪で皮肉なたとえ話を鮮やかに盛り込みつつ。


それにしても、読書メモを何日もかけて書き留めているが、思いのたけを勢いにまかせてツイートしてしまえば、1時間足らずですむ。それでも、記憶のパフォーマンスとしては、詳しい読書メモに匹敵するんじゃないか。


◎「心の仕組み」の感想はこちらにも。