遺伝子はDNAという文字で書かれたプログラムのようなものだ。そして私たちの体のどの細胞もまったく同じ遺伝子を持っている。
遺伝子のプログラムによって、受精卵というたった1個の細胞から体全体が出来ていく。つまり、ある部分は皮膚に、ある部分は心臓に、ある部分は骨に、ある部分は目にと分化する。しかし体全体が出来たあとは、同じプログラムによって、皮膚や心臓や骨や目の細胞は、体全体を作ったりはせず、自らと同じ細胞を複製する。
つまり、ある細胞に皮膚だけを作らせる場合と、ある細胞にどんな細胞でも作らせる場合で、遺伝子というプログラムの全体は同じでも、実行する「プロセス」が異なるということだろう。すなわち、ヒトなら約3万あるという遺伝子のうち、どれを働かせるか、どれを休ませるか、どのタイミングか、どの手順か、といったプロセスが異なる(たぶん)。
さてしかし、分化した細胞もちょっとした刺激さえあれば万能性を回復させるらしい、とわかった(STAP細胞)。ということは……
皮膚だけを作らせるプロセスと、どんな細胞でも作らせるプロセスは、わりとさくっと書き換え可能。そういうことか。
しかし、遺伝子というプログラムは本来おそろしく複雑にして精緻だろうに、何故そんな簡単に?
ひょっとして、複雑にして精緻な仕組みというのは、遺伝子自体にではなく、遺伝子が置かれ働く環境全体にこそある――そう言うほうが正しいのではないか。(神秘を遺伝子から環境に横流ししただけか) =保留=
もう1つ気づいたことがある。複雑かつ精緻なプロセスであるはずのことが、ちょっとした刺激でがらっと様変わりしてしまうことを、我々は他にもよく体験する。
たとえば、ちょっと外を歩いてきただけで、複雑かつ精緻にして重いはずだった私の気分がなぜか初期化されて回復している。万能精神! それどころか、週に150分くらい運動するだけで複雑にして精緻なはずのがんの発生すら減るという。万能身体!
映りの悪いテレビをバンと叩いたらよくなった。
女性研究者が割烹着を着たという刺激だけで、複雑にして精緻なはずの世間が騒ぎ、次いで、そんな世間はバカだと複雑にして精緻なはずのネット世間がまた騒ぐとか。万能日本社会!
そもそも――
たった1個のまったく同じ人間が、石を砕いたり槍を投げたりもできれば、小説を書いたり飛行機を作ったりもできる。万能人類! これらの様々な知性や能力が初期化され普遍化された状態があるとしたら、一体どういうものなんだろうと空想する。
たまたま『無限の始まり』(デイヴィッド・ドイッチュ)という本を読み始めたのだが、これはそうした人間の思考(哲学や科学)の万能性について書いているのではないかと、期待している。
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刺激によって細胞が初期化されるのは、手塚治虫の漫画で混乱したキャラクターが突如ヒョウタンツギに変身するようなもの?
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その後になって、STAP研究の捏造騒動がもちあがり、さらにいろいろ思った。
<4月3日・理化学研究所 会見>
捏造の捏はこねるという意味らしい。改竄はマウスか! というと違う。鼠ではないのだった。ともあれ、竄も鼠も手書きはあまりしない(実験手続きの英文も)
「STAP細胞は出来ていなかった。それなのに、出来たという嘘の論文を書いた」という単純な話だと私は思っているのだが、そうでない可能性があるのか?
「仮に、今回疑義を生じたデータを除いてみたとしも、その他のデータで刺激惹起性多能性獲得を前提としない説明が容易にできないものがあると私は考えており(ます)」(理化学研究所 笹井芳樹・http://www3.riken.jp/stap/j/r2document10.pdf)
<4月9日・小保方氏の会見を見ながら>
・STAP細胞は「永久に不滅です」みたいな? 長島引退1974は40年前か(それに匹敵する注目度かも)
・『ごっつええ感じ』の松本か板尾なみの不条理会見だ!
・大昔、従軍慰安婦の強制連行があったかなかったの白黒がつかないどころか、つい最近、小保方さんがSTAP細胞を作ったかどうかすら白黒つかないのが、この世の現実なのか。おもしろすぎる。
・小保方さんが嘘をついているか、私の頭か心が間違っているか、どちらかしかありえないと考えるのだが、どちらでもないということがありうるのだろうか。量子論理学の誕生だ。
<4月11日>
2013が能年玲奈さんの年なら、2014は小保方晴子さんの年だよね!
ちなみに、正しく報じるならば、「STAP細胞はあります」ではなく「STAP細胞はありま〜す」だよね。
小田嶋隆氏による「女子力」という指摘は秀逸だった。しかしながら、たとえば上司より先に帰宅する際に「お先に帰ります」ではなく「お先に帰りま〜す」とつい言ってしまう中高年勤労男子にも、女子力は存在する(少なくとも共感できる)
<4月16日・笹井氏の会見を見ながら>
・今回の会見はきわめて理路整然としている。これだったらSTAP細胞が存在してもおかしくないと感じる。
・笹井氏「反証仮説として有望なものは見出していない」
・笹井氏「STAP現象は自分のなかでも不思議」
・しかし、「STAP細胞が存在するならばあのような論文になるはずがない」という仮説に対する、反証仮説として有望なものを私は見いだせない!
<4月21日>
刺激惹起性多能性獲得人生、あらまほしき。霧雨の朝である。
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理化学研究所が自ら明らかにしている情報は以下。
◎http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140327_1/#ctg1
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<その後>
理化学研究所による調査は終了したが、その後、他の調査グループによって捏造を強く裏付ける結果が複数報告されている。たとえば以下。
◎http://www.nikkei-science.com/wp-content/uploads/2014/06/20140611STAP.pdf
共同研究者の若山さんの会見(6月16日)
◎http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG16048_W4A610C1CR8000/
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<そしてようやく決着>
◎http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20150304/p1