東京永久観光

【2019 輪廻転生】

2009年7月末までの読書本



終の住処/磯崎憲一郎 asin:410317711X

中年サラリーマンの主人公は、たとえば満員電車の中で、そこにはいないはずの小さな子供の笑い声を耳にする。そして……

――もう大丈夫だ、いっさいの心配は不要だ。こんな朝の通勤電車のなかにさえ祝福すべき子供がいたのだ、ならばここには猫やサルだっているかもしれない、馬だって姿が見えないだけで本当はいるのかもしれない、そしてじっさいにそれらの動物がいたとしても、この世界にとって何ら問題はない。――皮膚一枚のすぐ内側に、温かい液体が流れ巡っているのを彼は感じていた、いまやあらゆる障害が取り除かれ、この現実の中で起こることならどんなことでも受け容れられるような、そんな気がしてならなかった。恋愛に取り憑かれた、延々と続く暗い長い螺旋階段を登り続けた彼の人生のひとつの時代が、この日ようやく終わったのだ

 ドアを開くなり、彼は妻と娘に向かって叫んだ。「決めたぞ! 家を建てるぞ!」》(p86-87)

こうした叙述を寄り添って読んでいくと、ふいに巨大な胸騒ぎが私の方にまで固まりとなって迫り来るような気がした。それは「肝心の子供」を読んだときと同じもの。この感触に名を与えるなら、やっぱり「悟り」でいいのではないか。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20071224#p1

須原一秀弱腰矯正読本』にある「変性意識」というのも案外これと似たことなのかも、とも思う。http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20090720#p1

それはまた、人生という時間の流れをふいに一望できたような感触、と言ってもいいのかもしれない。

作家はインタビューでこう述べている。「時間というのはとらえどころのないもので、時計の針が進んだということは分かるけれど、実際にその中にいる時間というのは、直線的な時間とは別なところにある気がしますhttp://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090715/acd0907152246007-n1.htm


宇宙に隣人はいるのか/ポール・デイヴィス asin:4794207719

思い立って再読。素晴らしい本。ある夜とその翌朝に読みふける。この問題の核心がどこにあるのか、本当によくわかったと言いたい。たとえば、もし地球外に人間のような知性が存在すれば、正統的ダーウィニズムの基盤が揺らぐことになる、という意表をついた考察。あるいはまた、この宇宙はなぜか自ずと複雑になる方向性をもっているのではないか、という直感――地球のたった46億年のなかで人間ほどの知性が出現してしまったことが、奇蹟でないとしたら、唯一それは理由として有力だろうということになる。などなど。この問題は、誰かと長く語り合いたいといつも思っている。


*以下、書名と著者のみ

★世紀の発見/磯崎憲一郎
ダーウィン種の起源』を読む/北村雄一
★緋色の記憶/トマス・H. クック
★ハリスの旋風/ちばてつや
★考える人/坪内祐三
★日々雑記/武田百合子
生成文法渡辺明
★縦横無尽の知的冒険/永井俊哉