東京永久観光

【2019 輪廻転生】

冒険のチャーハン、開拓のラーメン


金曜の夜、ひどいだるさと腹痛に襲われた。二晩伏せっても治まらず、たまりかねて医者へ。ウイルス性の胃腸炎だという。そうして棒にふった土日(まあどうせいつも棒にふる)。月曜はやっと食欲が出てきたので、もう大丈夫かと思いきや、胃はまったく仕事をしてくれず、夜に食べたチャーハンは胃袋のなかで微動だにしない。夜半過ぎても、店で皿に盛られて出てきたそのままの形で固まっていた(わけではない)。

じつは医者からもらった紙片には、「食べて良いもの:りんご、ポカリスエット(常温)、熱いお茶、(具のない)うどん、お粥、お餅、煮物、煮魚」「食べないほうが良いもの:乳製品(牛乳、ヨーグルト)、ゼリー、プリン、冷たいもの(ジュース)、サラダ、蕎麦、ラーメン、コーヒー」とあった。いや、チャーハンもチゲ鍋もダメとは書いてないのだが、そこは言われなくても常識で考えろということか。

医者からもらった5種の薬も、胃酸を抑えるとか下痢を止めるとか、要するに胃腸をひたすら眠らせておこうとしているのかもしれない。

ともあれ、チャーハンの苦しい夜はこりごりなので、きょうの夕食はうどん屋を探す。はなまるうどんがあった。温玉ぶっかけ。こんなもの普段なら30秒もあれば食べてしまうのに。その久々に入ったはなまるでは、名札の文字がカタカナのバイト青年が麺を盛り、レジでは漢字一文字の名札のバイト青年が同じ漢字一文字の名札のバイト青年から手ほどきを受けていた。そのあと「食パンの耳を除いて食べてもいい」との医者の口頭指導を思い出し、試す。けっこういける。

ところで胃腸が弱いといえば、ちびまる子のクラスメート山根だが、私は元来丈夫だったので、今のように腹が減ってあれもこれも食べたいのに胃が受けつけないから仕方なく我慢するなどという切なさを、これまではあまり知らなった。

そういえば、伊丹十三の映画『タンポポ』(85年) では、高血圧かなにかで医者から固く禁じられた鴨南蛮を店で頼んでしまい、出てくるやいなや一気にずるずるずるっと食べてしまう年寄りを、大滝秀治が演じていた。『タンポポ』は「ラーメン・ウエスタン」とかいうなんだかアナーキーな触れ込みと、挿話が勝手につながっていく面白さが印象的だったとおもう。ほかにも、虫歯が痛む男(藤田敏八)が電車に乗っていると、なぜか点心の蒸篭をてんびん棒で担いだ少女が幻のごとく目の前を通り過ぎる。マーラーの耽美の極致アダージェット(『ベニスに死す』が有名)もどこかのシーンで使われていた。いやそれどころか、そうだ、チャーハンと命を引きかえにするみたいな話もあったではないか! 風変わりな映画だ。もう一回見てみたくなった。

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映画『タンポポasin:B000ALJ208

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その『タンポポ』をDVD鑑賞 → http://d.hatena.ne.jp/tokyocat/20071219#p1