東京永久観光

【2019 輪廻転生】

★荒井由実「卒業写真」 ★斉藤由貴「卒業」

桜も卒業の季節も、これが最後ではないものの、あと何回迎えるかは実際わからないので、卒業の歌について思っていることは折に触れて言っておきたい。

とはいえ実に平凡で、荒井由実の「卒業写真」はやっぱりいいなとか、そういうこと。

曲はもちろんいいが、歌詞。

「町でみかけたとき 何も言えなかった 卒業写真の面影が そのままだったから」

――私たちはこの感慨をこの歌を知る前から持っていたはずだが、もはやこの歌と一緒にしか持てない。

日本語の歌らしく、一つの音が一つの音符に素朴に重なってゆっくり歌う。この素朴さは、高校を卒業したばかりの(表向きだとしても)純真さを思い出させる。

「人ごみに流されて 変わっていく私を」

たとえばこの一節も、私自身その時期にしみじみとそしてとても新鮮に聴いたように思う。この、人ごみに「流されて」という表現は、それまでなかったのかも。

「あなたはときどき 遠くで しかって」

学校でこの2人はどんな関係だったのだろうと考える。クラスメート? 部活などが一緒? 友達以上恋人未満? ともあれこの言い方だけがぴったりくる関係というものが、おそらく普遍的に(平凡に)実在している(気持ちのうえだけかもしれないとしても)

「あなたは 私の 青春そのもの」

この言い方もこなれていないが、あえてそう書いたのかもしれない。ともあれ「ああそうだ」と多くの十代が誰かを思い浮かべるだろう。「青春」という単語は「あの日にかえりたい」でも出てくる。こっちは素朴さを装わぬ洗練の名曲だが「青春」の一語はやはり生硬。

 

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もう1曲。斉藤由貴「卒業」

サビの始めが誰の耳にもこびりついていると思うが、冒頭の旋律(ドドドドド〜 ドドドレミソ〜)も印象的。ただカラオケでは歌いにくかろう(歌ったことないが)どんなメロディだったか途中でわからなくなりそうで。「ほんとは嬉しいくせして」のところは転調的。

意外に覚えにくく、メロディー全体を丹念に追っていくことになり、そうしてその良さがきちんと実感されてくる感じか。筒美京平の曲にしては珍しいかも。歌詞も、卒業の歌だとはすぐわかるが、何が言いたいのか案外わかりにくく丁寧にたどることになる。松本隆の歌詞ではわりと多いと思う。

 

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そんなわけで、「卒業」というのは、そのイデアがどこかにあって、みんなそれを手探りつつ求めつつ実際に得られるかはわからないけれど、今年もまた、みんな具体的で個別的な卒業を体験し、そしてまた具体的で個別的な卒業の歌を聴くのだろう。