東京永久観光

【2019 輪廻転生】

ロンリー・プラネット


実は昨夜、イラクで拘束された人を招いた「帰国報告集会」を見に行った。5人のうち渡辺修孝さん、安田純平さん、郡山総一郎さんの3人が出席した(参照)。

とはいうものの、安田さんについては手記を東京新聞で読んでいたので、この日は髪とヒゲがどんどんこざっぱりしていくなあという印象のほうが強かった。渡辺さんについても、海外記者への会見のノーカット映像をウェブで見ていたので、帰国時のニュースで切り取られたようなひたすら無口で頑固な人では全然ないということは、すでに分かっていた。郡山さんも合同記者会見の時の雰囲気そのままだった。もっと身近な距離で話が聞けるのかと期待していたが、会場や参加者の規模からしてそれは無理だった。結果的に3人の肉声としてはこれまで以上のものはそれほど得られなかった。

ところで、今井紀明さんも同じ東京新聞に手記を載せているではないか。こっちもたまたま昨夜帰宅してから知った。また昨日は高遠菜穂子さんが初めて記者会見に応じたようだ。

これらの報告を見聞きしながら、私はついバックパッカーが語る秘境無茶旅行譚になぞらえている。不審ばかりが募る状況で、異邦人同士かすかな親近感だけを頼りに手探りのコミュニケーションを試みるが、その成否や内容はどこまでも掴みかねた、それでもどうにか突破できたから幸運だったけど、といった話として共感できるように思うのだ。移動や寝泊まりの困難さも分かる。検問や取り調べの理不尽や厄介も少し分かる。ただ命の危機だけは想像が難しいのだろう。

これも観光旅行の話だが、自分がこれから行く場所について、すでに行ってきた人の話やノートを大いに参考にする。その時は、この人の情報や判断はどれほど信頼できるのか、どこまで一般化できるのかといった値踏みを、お互いニコニコ会話しながらも、その人の性格や行動パターンを考慮しつつ慎重にやっている。ではもし私が今回の計5人と旅先で会ったなら、5人がそれぞれ語る情報や判断のうち、どれを私は最も信頼するだろう。

さて、拘束された人たちに質問したいことがあった。手も挙げたが人が多すぎてやはりダメだった。まあべつに3人でなければ答える資格がないというわけでもない。それは、イラク武装集団と呼ばれる人たちってだいたいどんな人だと思えばいいんだろう、という疑問だ。

それを考えるのに、こう問うてはどうだろう。武装集団ではないイラクの人たちは、武装集団であるイラクの人たちを、いったいどう思っているのかと。それは、日本で私たちがどういう人たちを見るのに似ているのかと。たとえば愛国主義者として過激な行動を取る人(北朝鮮に対して武装せよと主張する人もここに入るかもしれない)。あるいは非合法な武装集団としてのやくざ。もっと身近でいうと自警団。うちの近所でも商店街の人たちが詰め所をつくって見回りをしているし、渋谷へ行けばおかしなベレー帽の集団がいる。逆にチーマーもいる。何を言ってるんだ、5人を拘束したグループはそんな連中とはまったく違うよ、と言われるかもしれない。そうかもしれない。でもそうでないかもしれない。私は本当に分からないので、彼らの情報と判断を知りたかった。

つまりそれは、5人を拘束したグループとこの日集まった日本の市民とは、本当に連帯できるのか、どこまで連帯できるのか、どうしたら連帯できるのか、といった根本的な疑問だ。