東京永久観光

【2019 輪廻転生】

趣味の問題


K社のノート』では、モー娘を好きかどうかの議論が沸騰している(参照)。読まずに通り過ぎるのは惜しい。ちょろっと書いたらしいのが発端だったにしては、相当マジな反応がしかも多量に寄せられている模様。さすがにちょっと「とほほ」気分や「ったく」気分も覗かせつつ、しかしその丁寧な釈明と反論は徹底して「サービスがいい」ので、そこに感動してしまった。

「サービス」とは高橋源一郎が小説を評価する尺度として提示したもの。まったくそのせいにすぎないけれど、今回のやりとりで、ふと『批評空間』で源一郎氏がスガ秀実氏からこっぴどく叩かれた一件を思いだした(参照)。たとえばあのとき源一郎氏の弁明はサービスどころではなくなっていた。それはまあ、そもそもスガ氏の攻撃がサービスなどつゆ交えぬマジ言論だったのだから、しかたないとも言える。いやあれがむしろスガ氏の芸風、サービスか。

それにしても、モー娘が好きかどうかは、議論が進むうちに《酢豚のパインが好きか嫌いか》どころの話ではなくなっていく。今回それがよくわかる。「人の好みは十人十色」とは大滝詠一も歌っており、それを踏まえてさえいれば、酢豚や音楽の会話なんて、とことん交じりあわなくてもとことん楽しいばかりのはずなのに、と思いたくもある。しかしそれはたいてい裏切られるようでもある。だから実際は、酢豚のパインの好き嫌いでも友情にヒビが入ることはあるのだろう。趣味とは元来そういうものだったのかもしれない。いや、だったら逆に「イラク戦争が好きか嫌いか」「小泉総理が好きか嫌いか」だって、いかに憎しみぶつけ合う議論になったとしても、元来は趣味の問題として扱うことも私たちはできるのではないか。どうだろう(う〜む)。「大逆事件」だろうが何だろうが、できればもうちょっとサービスを持って楽しみつつ語りたい。だいたい文章とはなべてサービスを意識せずしては書きようがないだろう。

さて、それはそうとココロ社さんの発言を少し。

たとえば、『冷静と情熱のあいだに』がイイ、と思っている人がモーニング娘だったら、それはそれでバランスが取れているというか、ぼくとは違う星の住人だな、と思うのですが、金井美恵子とかスティーブ・エリクソンとかが好きでモーニング娘も好きという人の気持ちがわからない。

ぼくだけが感じているのかもしれませんが、はてなにおいては少なくとも「イラク戦争反対」などより「モーニング娘のよさがわかりません」の方が言いにくいような気がします。

私はこの声に単純にうなずける。時々こういうことをこれくらいの強度で漏らしておかずにはいられないのも分かる気がする。高橋源一郎のサービスのよい小説だけでなく、いつかココロ社さんのサービスのよい小説も読んでみたい。

何が言いたいのかというと、「私は酢豚のパインは微妙ですが、微妙とはまたなんて微妙な表現でしょう!」ということです。