東京永久観光

【2019 輪廻転生】

昇華しない

芥川賞ハリガネムシ」(吉村萬壱)。

皮膚のもぞもぞ感が神経症的、微温的。しかしそれはやがてエスカレートし、気がつくとエログロ炸裂、また炸裂。その「ぞぞっ」「うわぁ」とくる度合いは、たとえばかの蓮コラと比較してはどうだろう。私は世に言うほど蓮コラに悪寒を覚えなかったので、こっちに軍配をあげたい。

くわえて、ダウンタウンの『ごっつええ感じ』などの不思議加味系コントにあった、可笑しいんだけれど、それ以上になんともいえずいやーな状況と展開ができれば目をそむけていたいのになんだかずるずる立ち去れない、そんないたたまれない哀しさが降り積もる。とりわけラストシーンはそれにつきた。

というわけで、村上龍氏の評とは逆に、この小説、私にはとてもリアルだった。むしろ、今さら取り上げるのもどうかと思うが、「限りなく透明に近いブルー」のエログロのほうこそ紋切り型で作り物めいている。ちなみに、「ハリガネムシ」の冒頭で主人公の耳に虫が入るが、おかしなことに、「限りなく透明に近いブルー」も耳の後ろの虫の羽音で始まるのだった。

また、「ハリガネムシ」の基本トーンは、銭湯帰りに深夜喫茶でまたピラフでも食うか、といった、とりえのない、さえない、そんな日常にある。これもまたあえて比較してみるなら、「限りなく透明に近いブルー」の、横田基地周辺という特別な場所でのドラッグや乱交という特別な物事を伴った特別な空虚さとは違って、「ハリガネムシ」は実につまらない空虚さだ。舞台もどうやら1987年という中途半端な年。だが、そのほうが少なくとも私には切実に空虚だ。ああ実りのない人生よ。

ただし、私はこれ、けっきょく純愛の話なのだと思って読んだというのが、結論。