東京永久観光

【2019 輪廻転生】

日本人人質事件について 追加

浅田彰氏 
http://dw.diamond.ne.jp/yukoku_hodan/20040410/index.html

●以下は、私が内輪のMLに書いたことから転載。

(1)

3人の命を救う手だてが

自衛隊撤退(への動き)しかなさそうであることは、

政府も予感していると思います。

それにもかかわらず、

その手だてだけは、最初から絶対無視しているように見えますが、

そこが私はどうも理解できないんですよ。

やっぱり、

アメリカとの関係や国際社会の常識といったものが、

そこにあるということでしょうかねえ。

しかしねえ、

今そこにある危機から救える可能性の高い人の命以上に、

そんなもの(アメリカとの関係や国際社会の常識)のほうが重いというふうには、

私は思いたくない。

ダッカ事件はさておくとして)

テロリストに屈することだ、とも言い切れないと思います。

むしろこれを機に、

イラクイスラム武装勢力と日本政府が

独自に対話を開始できる可能性もある。

テロを克服するために、テロリストと対話するのは、

非現実的ではなく、とても現実的なのではないでしょうかね。

テロリストなんて、対話などもってのほか、撲滅するのみ、

と考えるかどうかで、

見解は大きくわかれてくるでしょうが。

(2)

日本政府が自衛隊撤退の可能性に少しでも言及すれば、

そのときは、彼らも約束を守る可能性は十分あると思う。

それは期限いっぱいまでになんらかコメントすればいいと考えれば、けっして遅くはない。

それにしても、この自衛隊撤退の要求は、

日本はどうせ応じないだろうと考えたうえで

あえて突きつけた、ということはないだろうか?

つまり、日本政府と交渉するつもりもコンタクトのルートもなく、

ただ「我々は日本を許さない。さあ日本よどうする」という問いを世界に伝えることだけが目的。

予想外に日本政府が少しでも動いたなら、それはそれで儲けものというような感じ。

そして、内心で予想したとおり自衛隊がそのままでいたら、

それみろ日本は敵だと、自らをいっそう奮い立たせることができる。

そしてまた、じゃあこの3人は殺してもしかたない、と言い訳もできる。


あるいは逆に、彼らが、もし本当に、無意味な人殺しを嫌うような集団であれば、

パフォーマンスが終われば、人質はそのまま解放する、という選択も、

まったく甘いのかもしれないが、ちょっと期待したい。

日本人を殺さないと気がすまないというアラブ人は、

米国人を殺さないと気がすまないというアラブ人に比べたら、

かなり少ないのではないかと思うので。

(3)

この際、自分の戸惑いも勇み足も顧みずに言うと――

自衛隊が行くことに、私は反対だったけれど、

国民の一定の支持があることを思えば、

その感覚のほうが正しいのかと考えることはあります。

少なくとも、日本や世界がそうした価値観で成り立っていることは、

認めざるをえない。

しかし、今回の事件を見ていて、

自衛隊はなにがなんでも撤退しない」という決意

(理由は=テロリストの要求だから+自衛隊だから+国際貢献だから)

を、

ブッシュ政府はたぶん促すだろう、とは予想したけれど、

日本政府までが、まるきり同じ感覚で、

しかもこれほどすぐにその感覚をさらしてしまうということは、

私は意外だったのです。

それこそ福田赳夫の感覚のほうが、

私の感覚や日本人の平均的な感覚だと思っていたから。

こういう場合に、

「テロに屈して自衛隊を撤退せよと言うのではない。

 自衛隊はもとから撤退すべきだったのだから、今こそ撤退せよ」

という主張もあるけれど、本音はそうではないように見える。

少なくとも私は

「少々テロに屈してもいいから、3人を見殺しになんてできるわけないじゃないか」

というのが本音です。

人質と引き換えに自衛隊が撤退するような道理は存在しないのかもしれない。

そういう価値観で世界は成り立っていて、それは正しいのかもしれない。

それでもなお、

「3人を見殺しにはできないじゃないか」

という価値観もまた、独立して存在していると思うわけです。

どっちも正しいのに、一方だけの正しさだけが重んじられる状況は、おかしいじゃないか、

というのが、私の違和感かもしれません。

3人の命が危ういという状況は、

もう終わった話ではないのですから。

今「何でも言うことを聞け」とまで言えないとは思います。

もし仮に「3人の命と引き換えに、自衛隊アメリカ人を殺害せよ」という要求なら、

そのときは完全に出口がない。

それに比べたら

自衛隊の撤退くらいやれよ」と思うわけです。

(4)

こういうやり方(大使公邸の占拠とか、日本人の人質)をする集団がない世界であってほしいけれど、

こういうやり方をする集団がやっぱりあるのが、この世界であるように、

こういうやり方(ただ抹殺してしまうこと)をする政府がない世界であってほしいけれど、

こういうやり方をする政府がやっぱりあるのが、この世界だなあ、と

空しく思うばかりですね。


以上は私自身のサイトに書いたものの転載。

はてなの再開に気づいたのと、人質解放声明の報に気づいたのが、

私はほぼ同時刻。

はてなのない生活と、人質の消息が知れない昼と夜は

関係ないはずだが、気分は似ていたかもしれない。